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第6話
食事が終わって片付けのために席を立つと、クッションを抱いたまま、悠希はリビングに向かう。
いつもだったら自分が食器を洗おうとするのに……
何だか嫌ーな予感がして、急いで片付けを終わらせると悠希の後を追う。
すると、リビングでは黄色いクッションを持った悠希が、いつものラグの上にちょこんと座っていた。
「……悠希?」
くるりとこちらを向くと、困ったような泣き笑いの顔で言った。
「……啓吾さん……僕、今夜はここで寝ます」
……まあ正直、びっくりはしなかった。
逆にいうと、悠希らしいな、とも思えた。今日はいつにも増して、とにかく自信のない、不安の塊のようになっているから。
それならばそれで、こちらはそれに付き合うだけだ。
ラグの横に置かれてるソファに向かって進むと、どかっと座る。
「いいよ。じゃあ、俺はここで寝るから」
「ダメです!……明日も仕事があるのに、ちゃんと寝ないと疲れとれない……」
「そう?悠希と一緒にいられないほうが、疲れがとれないよ」
「……そんな…」
「まあ、まだ3月だし、ちょっと寒いかもしれないけど……二人仲良く風邪をひくのもたまにはいいかもね」
「………」
ますます困った顔になる悠希。
本当はいじわるなんてしたくないけれど、しかたない。
大事な恋人をこんなところで眠らせるわけにはいかないから。
「───じゃあ、一緒にベッドで寝る?」
「……う―……」
どうする?どうする?
しばらくじっと黙ったまま考えていたが、あきらめたように悠希は立ち上がって言った。
「……一緒にベッドで寝ます……」
帰ることも一人で寝ることも、ようやくあきらめてくれた悠希を連れて、寝室へ移動する。
クローゼットから、泊まるとき用に置いてあった悠希の服を取って手渡すと、おとなしく着替えてベッドに潜り込んだ。
……と思うと、もぞもぞとベッドの上で動き出し、壁にぴったりくっつくほど体を寄せて動かなくなった。
「…………」
もうここまでくると、いっそすがすがしいな。
ベッドで寝るけれどなるべく邪魔はしたくない……と考えた結果がこれなんだろう。
まあ、もちろんこのまま寝かせたりはしないけどね。大体壁を向いてたら、俺に背中を向けることになるし。
自分もベッドに入ると、悠希の背中にぴったりとくっついてやる。
……あ―、久しぶりだ。一緒に寝るの。
悠希はもともと体温が高いのか、くっつくととてもあったかい。身も心も、本当にぽかぽかになる。
そうやって一人癒されていると……
「………啓吾さん」
またもや、悠希の困った声。
「ん?」
「あの―……これじゃ、意味がないんですけど……」
「そう?」
「……こんなにくっついちゃ、ゆっくり休めないです」
「ん―……じゃあ、こうしようか?」
そう言って体をずらし、二人の間に一人分のスペースを作ると、一気に悠希の体を引っ張った。
「わっ!」
勢いに逆らえず、悠希の体がこちらへころんと転がり、そのまま逃げられないようにぎゅうっと抱きしめた。
「………啓吾さーん…」
悠希の困り果てた声。
本人には申し訳ないけれど、やっぱりかわいい。
「あー、癒される……明日もがんばれそうだよ」
「……え……」
「明日は今日と同じくらい遅くなりそうだから、簡単に食べれるものがいいなあ」
悠希が簡単に作れて、負担にならなそうなものがいいから……
「うーん……うどんとか?麺類がいいかなあ」
「………」
悠希は黙ったままだけれど、構わず話し続ける。
会えて嬉しかった気持ちが少しでも伝わるように……
悠希さえよければ、明日も会いたいってことが分かるように……
すると、黙っていた悠希がびっくりすることを聞いてきた。
「……あのー……啓吾さんは…もしかして、去年より僕のこと……好きに…なってくれてるの?」
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