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第7話

「えぇ?」 想像もしなかったことを聞かれて、思わず声が上ずってしまった。 「……去年よりって……何で?」 またちょっと涙目になった悠希が、目を伏せながら答えた。 「だって、去年の忙しい時期は、僕のこと、邪魔だなあって思ってたでしょ?」 「邪魔って……」 「……一度うっかり電話したとき、すごーくめんどくさそうだったから……きっと忙しいのに電話なんかして迷惑だったろうなあ…って」 ……確かに去年の俺は、仕事のほうを大事にしていて、恋人のことなど気にもとめていなかった。 その当時はそれが正しいと思ってたし、今さら昔の自分を変えることはできないって分かっている……分かっているけど…… ……でも、できることなら去年の俺を殴ってやりたい! 「……だから今年は迷惑にならないようにしようと思ってて。でも、何かお手伝いできることがあればしたいって気持ちもあって……それにこの家にいると、啓吾さんのそばにいるような気になれるから……」 「だから、夕飯を作りに来てくれたの?」 悠希がこくりと頷く。 「でも、置き手紙書いてる途中で、いねむりしちゃった……こっそり帰ろうと思ってたのに、ドジだよね」 涙目のまま恥ずかしそうに微笑む悠希がどうしようもなく愛しくて、抱きしめていた手にさらに力をこめる。 「……そのおかげで悠希に会えたからいいんだ。俺だってずっと会いたくて、何度も何度も悠希からのメールを見てた……会えて本当に嬉しいよ……」 ふふっ、と嬉しそうに笑うと… 「……啓吾さん、好き。大好き」 悠希が囁いてくれた。 「……俺も。俺も好きだよ」 そうやって二人で何度も言い合ううちに、知らず知らずに眠りに落ちていった…… 朝目が覚めると、横に悠希はいなかった。 目覚ましのアラームが鳴ってから起きたので、悠希はそれよりも早く起きたのだろう。 怪訝に思いつつも着替えてキッチンに向かうと、そこにも悠希はいなかった。昨日と同じように、テーブルの上には茶碗とお椀とラップのかけられたおかずの皿…… 「──先に帰ったのか……」 まあ、これもまた予想の範囲内だ。 むしろ会えないはずだったのに昨日は会えたのだから、ラッキーだったと思おう。せっかく朝食を作っていってくれたのだから、ありがたくいただく。 味噌汁は昨日の残りだが、ご飯は改めて用意してくれたようで炊きたてだった。 ラップを外すと、作ってくれたおかずは卵焼き。一口サイズに箸で分けて口に入れると、ほんのり甘めの味付けだった。 「……あれ?この味って…」 よく休日の朝に作る、自分の味に似てる……というか同じだ。 「いつの間に覚えたんだろう……」 教えたことなんてないのに……作ってるところを見ていたのか? 味はいいけど、ちょっと焦げている部分もあって……でもうまく巻けてはいるから、練習したのかもしれない。 何というか……俺の味、というか我が家の味?をがんばって覚えるのって…… 「……もう、ほとんど嫁だな」 『ほとんど嫁』じゃなくて『ほんとの嫁』になってくれてもいいんだけどね。 いつか一緒に暮らしたいんだけど、まだ先の話かな…… 食べ終わって食器を片付けると、出勤するに程よい時間になっていた。身支度を済ませ鞄を持つと、玄関に向かう。 「さあ、頑張るか!」 早く仕事の忙しさを越えて、悠希とのんびり過ごせるように──今日も一日頑張ろう。

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