90 / 105
第8話
───今日も何とか仕事が終わった。
駅から10分の道を歩き、ようやく家にたどり着く。
いつもだったら何でもない道も、疲れた体にはやけに堪える。
……いっそ、この時期だけ会社近くのホテルに泊まり込むか?……でも、そんなことするとホテル代が残業代を超えるよなあ……
そんなどうでもいいことを考えながら鍵を解錠しドアを開けると……
「───あれ?」
朝はついていなかったはずの玄関のライトがついていた。
………これって、昨日と同じだ。───昨日と同じ、だ!
焦りつつも靴を脱ぎながら、体より先にとキッチンに向かって声をかける。
「───ただいま!!」
夜中だというのに大きな声を出したことについては、大目に見てほしい。
出てきてくれよと、とにかく祈るような気持ちで声を出したから。
玄関から廊下に上がったところで……
「───おかえりなさい、啓吾さん」
ガラッとキッチンのドアが開いて、悠希がひょっこりと顔を覗かせた。
……ちょっと照れたような、ちょっと恥ずかしそうな顔。
「……えーと、月見うどんと……きつねうどんと……できるけど、どっちにする?……あ、先にお風呂に入っても……」
……悠希が最後まで言う前に、駆け寄ってぎゅっと抱きしめた。
今日も来てくれたんだ……
昨日一生懸命語った自分の気持ちが、ちゃんと悠希に伝わっていたことが、嬉しくて嬉しくてしかたない。
しばらくそうしていると……
「……あのー……」
「うん。何?」
「わかめうどんもできるけど?」
「…………」
「…………」
「───先に風呂、入ります」
しかたなく、悠希を抱きしめていた腕をはなすとネクタイを緩めた。
そんな俺から嬉しそうに鞄を受け取った悠希は、「お疲れ様です」と言って癒しの笑顔をくれたのだった。
end
ともだちにシェアしよう!