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第3話

次の日。 朝、目が覚めると、啓吾さんは横にいなかった。 あわててベッドからとび起きてキッチンに向かうと、啓吾さんは朝ごはんを作ってくれていた。 「おはようございます!あの……ご飯……お手伝いできなくて、ごめんなさい…」 昨日はお仕事だった啓吾さんの代わりに、今日は僕が早く起きてご飯を作ろうと思ってたんだけどな…… 「いいんだよ、そんなの。楽しみすぎて、早く目が覚めちゃったからさ」 そう言って啓吾さんは、フライパンのオムレツをぽんとひっくり返した。 卵の鮮やかな黄色が僕の食欲を刺激する……とってもおいしそう。 「もう出来上がるから、顔を洗っておいでよ」 啓吾さんがオムレツを皿にうつしながら言ったので、その言葉に甘えて洗面所に向かう。 ───部屋を出るときに「今日は寝ぼけてなかったか……残念」という啓吾さんの独り言が聞こえたけれど……意味はよく分からなかった。 朝ごはんを食べて身支度をすませたら、いよいよ出発。啓吾さんの車の助手席に乗り込んだ。 啓吾さんがカーナビに入力する文字を見るだけでもわくわくしてしまう。 よくよく考えてみたら、こうして二人で遠くまで車で出かけるということ自体初めて。 僕、免許は持っているけれどペーパードライバーだから、今日の運転を全部啓吾さんにおまかせすることになるのはちょっと心苦しいけれど……でも、運転する啓吾さんの姿はかっこいいし、ずっと横にいられるのは素直に嬉しい。 はずむ気持ちを押さえきれなくて、運転している啓吾さんにお茶を渡したり、持ってきたお菓子を分けてみたり……そんなことをしているうちに、車の窓から大きな観覧車が見えた。 「啓吾さん、見て!観覧車が見えたよ!」 思わず子どもみたいに声を上げる。どうしようもなくわくわくして仕方がない。 「啓吾さん、高いところとか、平気?」 観覧車も乗りたいなあ。二人っきりで景色を楽しめるって、いいよね。 僕は平気なんだけど…… 「ああ。高いところも大丈夫だよ。観覧車、一緒に乗ろうか」 「うん!」 そんなことを話しているうちに、車は遊園地の駐車場に到着した。降りてチケット売り場に向かい、フリーパスを二人分買う。 自分の分は自分で買おうと思っていたんだけど、啓吾さんがさっと二人分払ってしまった。 あわてて支払おうとしたんだけど、啓吾さんはいたずらっぽい笑顔で「これは元気を分けてもらってたお礼」と言って、チケットを1枚差し出した。 僕は啓吾さんに会いたいから会いに行っていただけで、お礼をしてもらうほどのことではないんだけど……でも啓吾さんがとっても楽しそうだったので、そのまま素直に受け取る。 「ありがとう、啓吾さん」 せめてお礼だけは……と伝えると、啓吾さんが嬉しそうに笑ってくれたから……これは受け取って正解だったのかもしれない。 せっかくプレゼントしてもらったんだから、思いっきり満喫しよう! エントランスから入場すると、春休み最後の週末を迎えた園内は人でいっぱいだった。 「さて、どこから行こうか」 啓吾さんはゲートで渡されたマップとイベントの案内を広げ始めたけど……ここは僕に任せてほしい。なんといっても半年前にも来てるからね。 半年前の記憶と、昨日までに集めまくった情報をもとに、今日のプランは考えてある。 よーし! 「啓吾さん、こっち!こっちから攻めよう!」 啓吾さんの腕をとって引っ張ると、まずは園内で一番人気のアトラクションに向かって走り出した。

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