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第6話
「………悠希、大丈夫?」
売店で買ってきてくれたペットボトルのお茶を差し出され、僕は力の入らない手で受け取った。
お化け屋敷からなんとか脱出して30分。
ぎゃあぎゃあと大声を出して騒ぎ、ぎゅうぎゅうと啓吾さんにしがみつき、何とか外に出れたけれど腰に力が入らず、こうしてベンチに座っているのだった。
大きな声を出しまくったせいで喉はカラカラ…… 冷たいお茶をぐびぐびと飲み、はーっと息をはくと、かすれた声で啓吾さんに謝る。
「………啓吾さん、ごめんなさい。すごい迷惑、かけちゃった……」
自分で入るって決めたのに、こんなに大騒ぎして……僕だって男だし、こう見えてももう大人だし……なのにこんなにお化けにビビりまくるなんて、あきれられたかも。
でも、啓吾さんは僕の頭をぽんぽんと撫でると、横に座って言った。
「迷惑だなんて思ってないよ。というか、あんなに悠希から抱きついてくれるなんて、得した気分だけど?」
「だ、抱きつく!?」
啓吾さんがからかう口調で言ったので、思わず僕の顔も赤くなる。
「だ、だって怖かったんだもん!わざと抱きついたんじゃないよ!」
「別にわざとでも俺は嬉しいからいいけど?それに……」
啓吾さんはにこっと笑うと、僕の耳元に唇を寄せた。
「ベッドの上では、さっきと同じくらい強く抱きついてくれると嬉しいけど?」
「───ふひゃっ!……は、え?…ベ?……あのっ……」
「ははっ、顔真っ赤だよ、悠希。ちょっと元気でたね」
「もう!からかわないでください!」
啓吾さんにとっては冗談かもしれないけど、僕はドキドキしてしまったし……もうっ。
「……ああ、もう日が暮れてきたね。そろそろ、帰る時間かな」
時計を見ながら、啓吾さんが言った。
楽しい時間には限りがある。もちろんわかっているけど、やっぱり寂しい。だから……
「啓吾さん」
「ん?」
「最後に、観覧車に乗りたい……」
来る途中で見えた観覧車……最後はあれに、一緒に乗りたいんだ。
「ああ……そういえばまだ乗ってないね、あの観覧車。よし、最後に一緒に乗ろうか」
「うん!」
元気に返事をして立ち上がると、啓吾さんも嬉しそうに笑ってくれた。
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