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第7話
観覧車の搭乗受付へ行くと、時間がよかったのかとても空いていてすぐに乗れた……というかガラガラだった。
「……案外、空いてたね」
「ね。子ども連れはもう帰りはじめる時間だからかな……まあ、独り占めしてるみたいでいいんじゃない?」
僕たちの乗ったゴンドラの前も後ろも空で、何だか貸切にしてもらったみたいで嬉しい。
向かい側に座った啓吾さんをちらりと見ると、日の沈みかけた景色をじっと眺めている。
夕陽に照らされたその顔はくっきりと陰影がついて、いつもに増してかっこよく見えてドキドキする……
「もう、日が沈むね………一日があっという間に過ぎていったよ。楽しかったからかな」
そう言ってこちらを向くと、にっこりと笑ってくれた。
その笑顔に、ぎゅうっと胸が締めつけられるように苦しくなる。
もう何度も見てるのに、何度見たっていつも、ドキドキしたり苦しくなったり……僕の心臓は忙しい。
こういうのが『好き』ってことなのだとしたら、僕の『好き』には限りがないみたいだ。
「僕も、楽しかった!……啓吾さんの弱点も分かったし?」
絶叫マシーンが苦手なんて、ちょっとかわいいよね。
いつもかっこよくて、何でもできちゃう啓吾さんにも苦手なものがあることが分かると、何だか嬉しい。
「……ふーん……俺は、悠希の弱点が分かっちゃったけど?」
いじわるな口調。顔を見るとにやにやしてる。
これはきっと、お化けが苦手だ、ということを言っているに違いない。
「ちっ、違う。お化け、苦手じゃないよ!」
「へー……じゃあ、幽霊と遭遇しても平気だよね。───そういえば、悠希にはまだ言ってなかったけど……実はうちの近くの……」
───ひぇっ!?
幽霊?うちの近く?
「わあー!ちょっと待って!その話、言わないで!!」
続きを話そうとする啓吾さんの口を塞ごうと立ち上がると……
「わっ!悠希、危ない!!」
急に立ち上がった勢いでゴンドラが揺れ、バランスを崩した僕は足をとられて倒れる。
──────!!!
衝撃を覚悟して目をつぶっていたが……痛みはいつまでたってもやって来なかった。
「………あれ?」
……恐る恐る目を開けると……僕の体を、啓吾さんがちゃんと受け止めてくれていた。
「───大丈夫?」
「………うん……あの、ありがとう……」
啓吾さんの顔がすごく近くにあって、ますますドキドキする。
あわてて起き上がろうとするんだけど、動けない……啓吾さんが、掴んだ手を離してくれないから……
そのまま啓吾さんの右手が僕の頬を撫で……口唇が僕の左頬に触れた。
次におでこに触れ……そして口唇に触れた。
「………啓吾さん……」
「ん?」
「……あの……もう、1回……して……」
僕の言葉を聞いて嬉しそうに微笑むと、もう一度啓吾さんはキスをしてくれた。
沈みかけた夕陽の光がゴンドラの中も照らしていたけれど……僕の顔が赤く染まっていたのは、そのせいだけではないと思う……
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