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第8話
啓吾さんの車に戻った時にはすっかり日も暮れて、あたりは暗くなっていた。
車に乗り込むと啓吾さんは、エンジンをかける前に買い物袋からいそいそと取り出し、バックミラーにキーホルダーをかけた。
この遊園地のオリジナルキャラクターで、僕が啓吾さんからもらった合鍵にもつけているイヌのキャラクターのぬいぐるみ。
「……やっぱりつけるの?……これ……」
「もちろん。かわいいでしょ?おそろいだし」
……おそろいなんだけど……ちょっと恥ずかしい……というか、くすぐったい感じ。
「まあ、記念だからね。やっとここにこれた記念」
「……記念?別に初めてのデートじゃないよ」
出かけない時期は確かにあったけど……1年と10か月近く付き合っているんだから、もちろんこれまで何度もデートはしてる。
今さら『記念』なんて、変な感じだ。
「うーん………悠希から返された合鍵を使ってたときさ……この、遊園地のキャラクター見るたびに、『あ、悠希と一緒に行ったことなかったなあ』『いつか一緒に行けたらいいのになあ』って思ってて」
啓吾さんがキーホルダーを指で揺らす。
「もう会ってはくれない、会えないままなんだろうと思ってたのに……それなのに、こうして願いが叶って、今日一緒に来れた。それが嬉しいから『記念』なんだ」
───あの、合鍵を持っている間、そんなことを考えてくれていたんだ。
というか、今日一日そんな特別な気持ちで一緒にいてくれたんだ。
そういえば僕が『遊園地に行きたい』と言ったとき、啓吾さんはとっても嬉しそうだった。啓吾さんも僕と行きたいと、ずっと思ってたから喜んでくれてたのかな。
そう思ったら、また胸が苦しくなる。
こんなとき、なんというのが正解なのかは分からないけれど……
「啓吾さん」
「ん?」
「僕……今度は、一緒に水族館、行きたい…です」
おねだりするのが嬉しいのかな、と思って……というか、自分がおねだりしたくって……
すると啓吾さんは笑ってくれて、
「ああ、行こう。楽しみだね」
そう言って、車のエンジンをかけた。
次のデートはいつか、まだ決めてないけれど……その日がとっても楽しみです。
end
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