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「……今日、虐待で女の子が死んだってニュースが流れてたんだ。ぶっちゃけ、殺すくらいならくれよって、思った。物じゃないから、あげるとか、もらうとか言うのはおかしいってわかってるけど、虐待のニュースを見るたびにどうしてもそう思っちゃうんだ。俺なら……俺たちなら、絶対絶対、大切にするのにって。……それに、やっぱり、お前に跡取りつくってやりたかったな」  最後に付け加えた一言に、まこの本音を感じた。高校時代から妙にその事にこだわるまこの耳たぶをギュッとつまむ。  申請を通そうと意固地になっていたのは、その事も関係しているのかもしれない。そんな気持ちなら受理されなくてむしろよかったのかも。後継の話は、俺と親父の間でとっくに決着がついている。  地元に戻ってくる時、まことの交際を認めてくれなければ他の歯科医院で就職すると言ったのだ。“清水クリニックの側で開業すると半年どころか3ヵ月もたずに潰れる”と言われるほど繁盛している俺の実家。  数が多く、潰れる歯科医院や安月給の歯科医が多いこのご時世、結局は跡を継ぐだろうとタカをくくっていた親父には、俺の言葉が相当こたえたらしい。年をとって多少丸くなったこともあり、嫌々ながらもまことの交際を認めてくれたのだ。  なぜ耳をつままれたかわかっていないまこの耳たぶをもう一度ギュッとつまむ。 「イテッ。なんだよぉ……俺、傷心中よ? 今日くらい、しんみりさせてよ」 「だって、まこってば耳タコなこと言ってるしぃ。たこ焼き屋さん始めるなら、俺が第一号の客になろうと思って。タコ漁手伝いましょうか、店主さん?」 「ちょ、なんで耳噛むんだよ、ばか。つーか、タコができるならお前の耳だろ」 「ふぅん。しつこく言ってる自覚はあったんだ」  なおも齧り付こうとする俺を、まこは必死で引き剥がそうとする。 「ふざけんな。あ〜……もう、耳がよだれでベッチャベチャ。風呂入る前だから別にいいけどさぁ」  くすぐったそうに身をよじりながらも、まこの目からは涙がとまらなかった。  ピアス穴の残った薄い耳たぶをベロンと舐める。しょっぱくて、ちょっとおいしい。なんて思っていると、容赦なく鉄拳が太ももに降ってきた。 「……っ、殴ってもいいけど、手加減はして」  主に座り仕事が多い俺と違い、仕事柄まこは高校の時より段違いに筋肉がついている。パンチが重く、地味にダメージがやってきた。 「わりっ」  俺の表情を見て、まこは慌てて太ももをなでてくれた。子供向けの魔法の呪文まではとなえてくれないらしい。“痛いの痛いの飛んでいけ〜”って、してほしかったのに。  太ももをなでおわると、まこは気まずそうに目をそらしながら口を開いた。

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