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第6話 続き

広い部屋の前面は硝子貼りになっていて、 机と大きなソファしかない ソファには、40代後半ぐらいだろう、 鋭い眼光の男が座っており 部屋に入ってきたツナを値踏みするように見てきた 「掛けて下さい」 ツナは促されるまま、 彼の正面のソファへと腰を下ろした 「俺は陣内。この事務所を任されています。ところで 亡くなった親父さんから母方のお祖父さんの事は聞いて いましたか?」   「お祖父ちゃん? いいえ、特には聞いて ませんが……」 たとえ親戚の誰かに聞かされていたんだとしても、 実際会った事もない人の事など覚えているハズがない。 でも、節目ごとの慶事などに親戚一同が集まった時とか 口さがない伯母や伯父達が自分の親を悪く言っている のを聞いては、胸くそ悪くなったのは覚えている。 あの時確か伯父さん達は……”親父がヤクザなんかじゃ なかったら、云々 ――”と言っていた。        「あなたのお祖父さん、九条泰三氏は広域指定暴力団   ”煌竜会”の4代目総長です ――」     それに続いて、この陣内さんから聞かされた話しは、 今の俺には到底信じられる事ではなかった。    だってそうでしょ??    限りなく初対面に近い祖父がヤクザさんの大親分で。    ステージⅣの**癌に冒され終活の真っ最中で。    自分の跡目には長男・雅史(俺の父ちゃん)をと 考えているが、何らかの突発的事情によりそれが 叶わぬ時は、直系の男子に継がせよ――と、 命じたそうな……。    え?……え、えぇ~~っ!!    コレって、めっちゃヤバくね?    リアル ”セーラー服と機関銃”やん。    ま、俺は女子高生やなくて、しがない男子校生 やけど。 バイト帰りの俺を襲って倉庫へ監禁した 首謀者は、恐らく父の腹違いの弟なんだそう。    ”食いしん坊”なだけが取り柄の俺が リアルに ”相続するか? 否か?” の、 返事を早急に求められているのは、 映画の中に出て来た”目高組”のような、 組員4名ぽっちの弱小暴力団ではなく ――、 最も末端の4次団体の準構成員を含めれば、 総構成員数は約15000人にも及ぶという 日本最大の広域指定暴力団だ。      跡目を相続する事によって手に入れる財と権力は、 根っからの小市民な俺には想像も出来ない。    俺は最初、この部屋に連れて来られた時、 あつしと忍らの質の悪いドッキリだと思っていた。    いや、どうかドッキリであってくれと、心の中で そう願っていた……。       「……で、返答はなるべくなら、今すぐして 欲しいんだが」     なら、考えるまでもない。       「無理です。俺はただの学生ですし、皆さんを 率いていく人望もスキルも 特殊な技術も何ももってません」   「……どうしても、引き受けて貰えませんか?」 「えぇ、どうしても無理です」 「……承知しました」 陣内が低い声でそう言うと、俺をここへ 連れて来た鏑木さん朋也さん他、室内にいた組員の 皆さんが一様にがっくり肩の力を落とした。       「こんな所へご足労頂いてありがとうございました。 帰りはうちの若いもんに送らせますんで ――」   「い、いえっ。そのお心遣いだけで結構ですっ」 ”ゾク車” ならぬ、何処からどう見てもヤクザの 車にしか見えない、さっきみたいなベンツで 送られたりしちゃ、俺は明日からご近所中の キケン人物確定だ。    送迎の申し出は丁重にお断りし、この部屋の 外廊下へ出たらエレベーターは1階だったので、 もう、1秒でも早くこの場から立ち去りたかった 俺は階段を駆け下り始めた……。    だけど、不意にそんな俺の脳裏にあの映画 『セーラー服と機関銃』のワンシーンがパッと 浮かんだ。    そのシーンは、主人公・星泉が  『―― 組長なんて絶対無理です。これでも一応  女の子だし、学校もあるし ――』と言って、 跡目の相続を断って、去った後、 若頭・佐久間他3人の組員が別れの盃を交わす、 といった場面だった。    なんで今、そんな場面が?    深く考える前に、俺の足は元来た階段を戻って また事務所前の扉の所まで来ていた。    そして、俺がそこへ着いたとほとんど同時に開いた 扉からは、何だかさっき見た時よか体の横幅が 厚みを増したように見える、組員さん達の姿。    ジャケットで隠しているが、皆の胸元やベルトには 刃渡り**センチはありそうなサバイバルナイフや 黒光りする拳銃が見えた。    ったく、ヤクザってのはどうしてこう単細胞揃い なんだ?!    こんなの持ち歩いてるのがバレただけで、 銃刀法違反の現行犯じゃないか。       「あ、あの ――」             「チッ、何ぞ、忘れ物っすか?」 「と、朋也さん達こそどちらへ行かれるんですか?」 「部外者のあなたには関係のない事です」 と、陣内さんが俺を冷たくあしらい、 エレベーターホールへ向かった時、 部屋の扉が閉まりきる瞬間 ――。    俺は見てしまった、 映画のワンシーンのように、神棚の下へ 別れの盃を交わした跡があったのを。       「―― ちょっ、ちょっと待ってっ!!」 今度も考えるより先に体が動いていた。    つまり、俺はエレベーター待ちの組員達の 一番前へ割ってすすんだ。       「トーシロは引っ込んでて下さい」 「……さっきのお話し今からでも引き受けられ ますか?」     皆んな、きょとんとした表情で俺を見ている。    唯一、冷静に受け止めたのはあの陣内さん。       「それは何かの冗談ですかい? あんただって変な トラブルに巻き込まれるのはごめんでしょう。さぁ、 そこをどいて下さい」   「だめです。5代目候補として、命を粗末に扱う事 だけは許しません」   「あんた、今何と……?」 「……跡目相続の件、確かにお引き受けしました」 俺のこれから先の人生が180度変わった瞬間だ          とりあえずは、これでもう ”バイトの雇用期間更新”に怯える日々からは 脱出出来た訳やし。    一応これでも、正規就職になるんだよね?

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