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第9話 ファイナル・アンサー

今日は6月に入って初めての大安吉日。 綱吉はかねてより予定されていた、 祖父=煌竜会4代目総長との”親子盃”に挑む。 これはヤクザ社会に於いて、 親分子分の血縁関係を特定するための儀式、だそう。 皆からは ”御前” と、呼ばれているが、 祖父の本名は九条 泰三、御年・間もなく70才。 煌竜会は例外的に代々”世襲制”をとり、 直系の男子のみがその頂点に立って来たが、 それだけに当代総長らの子作りは総長業務の中でも 必須と言える最重要課題で。 どの歴代総長も正妻以外との間に子供をもうけており。 今回、ツナの対立候補に挙がっている”九条晴彦”は ツナの父・雅史の異母弟で。 煌竜会内では関東総本部の副本部長を務めているそう。 これは素人考えだが、組織内でナンバー3の実権を持つ 若頭・手嶌など、自分に比べたらはるかにうってつけの 人材だとツナには思えたが。 手嶌曰く ―― 面倒が増えるだけだから、 今の役職で十分らしい。 見かけによらず謙虚だと思っていたら、 手嶌の父親もまた組織の構成員で、現在は服役中の為、 その恩を返す為に煌竜会へ骨を埋める覚悟だと語った。 「―― 到着しました」 助手席に座っていた陣内がひと言告げると、 ドライバーの朋也が素早く運転席からを降り、 後部座席のドアを開けてくれた。 車の中でヤクザ社会の常識?!  なるものを手嶌自ら教えてもらいながら、 祖父の住まう横浜の本宅を訪れたのだった。 「わぉ ―― 凄いな……」 あまりの大きな屋敷に唖然とする。 これだけ広大な土地に平屋の母屋だけでなく、 部屋住みの若衆と使用人達の住居棟と 本格的な設備を備えたスポーツジムや 客人達を饗(もてな)す為の茶室に、 こういった大きなお屋敷には定石なのか? 見事に手入れの行き届いた枯山水もあった。 車の所から玄関先まで、両端にズラリと居並び 頭を下げてる黒服達に少々ビビりながら、 手嶌や陣内と共に玄関先へと進む。 「今に馴れる」 煌竜会の面々と関わるようになってから大抵の事には 動じなくなったが、今まで想像でしか知らなかった世界 に足を踏み入れた事に少しだけ戸惑う気持ちがないわけ でもなかった。

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