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第14話 道のり

俺は生後間もない頃、 駅のトイレへ置き去りにされていた捨て子だった。 親父と母さん ―― 松浪夫妻に出逢ったのは、 京都府内の養護施設を散々たらい回しにされ、 すっかり人間不信になってしまった10才の頃。 子供らしい可愛げなど微塵もない俺の事、 松浪夫妻は何故か、殊の外気に入ってくれ。 俺は2人と知り合って約半年で夫妻の元へ 引き取られた。 「今だから思い切って聞くけど、煌竜会ってトップには 組長の直系しか就けないんだろ? なのにどうして 養子でもない俺なんかが ――」 「じゃから今こうして養子縁組の手続きをするんでは ないか。言っておくが、ここへ来た以上、儂に従う以外、 長生き出来る道はないと思え。逆らえば晴彦のアホに 牙を剥かれ、あっという間にあの世行きじゃて」 と、言い、祖父さんは高らかに笑い飛ばした。 俺は、半分呆れ・半分感心し、 テーブル上のペンに手を伸ばし、 『松浪綱吉』と今まで17年間付き合ってきた名前を 書類へと書き込んだ。 そして、これから俺は『九条綱吉』として生まれ変わり 生きていくことになる 「思った通り賢いな。フム、この世知辛い世の中 何事も賢くなくてはやっていけん」 祖父さんは掴みどころのない笑みをたたえ、 懐から小刀を取りだし、俺へと差し出す 俺は小刀を受け取ると右手の親指を傷つけ血判を押した 「もし俺があんたの期待に応えられなかったら?」 「くっくっ、その心配は不要じゃて。お前は安穏とした 見かけの割に恐ろしく頭の回転が早い。大いに期待 しとるぞ。では直ぐに仕事を始めて貰おうか」 「仕事?」 「今手こずってる案件があるが、お前なら適任だろう。 それから、この件は機密漏洩を最小限にとどめる為、 他言無用じゃ。竜二、入れ」 「はっ」 どこにいたのか、 扉が開く気配もしなかったのに、 いつのまにか俺達の傍に竜二が立っていた。 「この手嶌竜二はたった今からお前の教育係兼護衛兼 上層部との連絡係だ。ちちくり合うのは結構だが、 公私の区別はきちんとつけろよ」 その祖父さんの言葉に竜二は余裕の笑みを返したが、 俺は穴があったら入りたいくらいめっちゃ恥ずかしかった (なんで、あんな事までバレてんだよ……) 「早速だが竜二、ツナへ詳しい説明をしてやりなさい」 「はっ。煌竜会に連なる者は薬にだけは手は出さない。 また、縄張り内での薬の売買も厳禁。だが最近、 縄張り内にある高校の関係者が薬を流してるって 情報を掴んだ」 「関係者? こりゃまた随分アバウトで広範囲だな」 理事会・教員・事務系職員・用務員・PTA・ 生徒達・そして学校の出入り業者…… 疑い出したらキリがないくらいだ。 でも、そこまで聞けば、だいたいの見当はつく 「俺にその関係者をつきろめろと?」 「そうだ。ツナ、お前にはその学校に転校して貰う」 なるほど、確かにそれが一番手っ取り早いとは思うが。 「俺、陣内とかと挨拶回りに行って、地元にけっこう 顔、知られてると思うんだけどー?」 「案ずるな、手は打ってある」 竜二がそう言うやいなや、 第3の人物が大荷物を携え入ってきた。 すっごく綺麗な顔立ちとスタイルとはあんまし釣り合わない 鍛え抜かれたムキムキな上腕二頭筋が印象的な ――。 彼、と言えばいいのか……それとも彼女、なのか? その人の”オネエ口調”にもかなりびっくりした。 清治(きよはる)、ってのが本名らしいが。 いかにも漢っぽいのが気に入らないと ”キヨ”って呼ばせてるようだ。 キヨさんは、とある大物演歌歌手の 専属メークアップアーティストだったが、 その歌手さんと些細な事で大喧嘩になり 仕事を追われて職安で就活してた時、 祖父さんに拾われたそう。 「まぁ、お久しぶりねぇ。5代目さん。 その節はどーも」 なんて、挨拶され、調子のいい俺は 「はぁ、こちらこそどーも」 なんて、適当に話しを合わせ返事をしたが、 どこで会ったのか? まるで覚えてない。 「無駄口はあとだ。さっさと仕事しろ、キヨ」 「もーうっ。分かってるわよ。竜ちゃんはホント せっかちさんなんだからぁ」 そうブツクサ言いながらキヨさんは、 大荷物から取り出した様々なアイテムで まずは俺のヘアスタイルから大改造し始めた。

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