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第15話 にわか探偵、始動する
「―― おはよう、松浪さん。どう? この学校には
慣れた?」
「あ、うん。おはよう」
隣の席の早川さんが声を掛けてきて俺は慌てて
返事をした。
朝も早いということもあって、
2年A組の教室内には俺と早川さんしかいない。
ここ、私立星蘭女学館はお金持ちの子女ばかりが通う
名門進学校だ。
目の前の早川さんもそこらへんの高校では
お目にかかれないような、清楚かつ高級そうな
フルオーダーメイドの制服を着ている。
ではなぜ俺のような一般庶民が何の為にここに
いるのか?
ことの始まりはほんの数日前に遡る。
*** *** ***
「今回の懸案だが期限はつけんが必ず大元まで
辿るんだ。分かったな」
「善処する」
「それから、懸案に取り掛かってる期間中、祠堂の
学生寮へは帰るな。万が一、正体がバレでもすりゃ
敵は必ずお前の弱みを狙ってくる。お前だって
大事な人は巻き添えにしたくねぇだろ」
「もちろんだ」
「新しいヤサは後で案内させるとして、俺以外の
護衛と引き合わせる」
「護衛?」
既に俺には、若頭・手嶌のつけた護衛が2人いる
朋也と蒼汰だ。
「お前は一応、5代目候補なんだ。念には念を入れて、
って事だ」
これまで以上に危険になるという事か。
「マオ、笹野、石河」
名を呼ばれた3人が部屋に入ってくると、
俺へと頭を下げる
笹野と石河とは初対面だが。
マオとは親子盃の時、顔合わせ済み。
「日常表立った接触をするのはマオだけだが、
笹野と石河の2人は臨時講師として問題の学校へ
潜入する。俺からの説明は以上だ」
竜二の説明は一応ひと通り終わったようだが、
俺の髪の毛を弄くり回してるキヨさんは何故か?
色んな毛色の違うウィッグを俺の頭にあてがい
あーだこーだと悩んでいる模様。
ちょっと待て、何故に女物のウィッグなんだ?
身元を隠す程度の変装なら、んなモン必要ない
と思うが?
「う~ん……やっぱつっくんって肌が白いから
黒髪がベストかもね」
ウィッグが決まったら、お次は顔で ――
「んー、じゃあ目ぇ閉じてねー」
「はぁ……」
全てを委ねるように瞼を閉じる。
「ふふっ、この表情ってさ、まるでキスを待ってる
みたいよねぇ……してもいい?」
「ダメです」
「つっくんのけちんぼー」
ささやかだった奥二重がくっきりおメメの
綺麗な二重になり、アイシャドウがのって、
目の淵にラインが引かれる。
口は派手すぎないリップで薄っすら色づけ、
グロスでぷっくりツヤツヤに。
次々と手際よく施され、
ものの数分でメイク終了~。
「はーい、メイク完成。お疲れさま」
「は、ぁ、どーも、です……」
「それじゃ、ウィッグも付けるねー」
ピョンピョン跳ねまくっている寝癖だらけの髪を
ネットの中にしまい込み―― 、
上からロングの黒髪ストレートなウィッグを
被せられる。
取れないようピンでしっかり固定して、
少し整えてからカチューシャを乗っければ、
あっという間に可愛い女子高生の出来上がりぃ~。
って、だーかーらぁ!
「おい、竜二。何故に女装なワケ?」
「あ、まだ言ってなかったっけ? 潜入する予定の
学校な、女子校なんだわ」
「!! それを先言えよっ」
「お前も現役男子校生なんだから、名前くらいは
聞いた事あるだろ ”星蘭女学館” 都内屈指の
お嬢様学校だ」
ぎょえ~っ。マズいよー。
詩音ちゃんも通ってる学校やん。
学校への潜入なんて楽勝だと思ってたけど、
旨いハナシはそうそう転がってるもんやないな。
*** *** ***
そういう事がありまして、俺は昨日から
この学校に転校生として通っている。
だけどさぁー、男の俺が女子高生の振りするって、
無理があり過ぎなんとちゃう?
頭にはカツラまで被らされて、ヒラヒラビラビラな
制服まで着せられてものすごい屈辱。
しかも昨日、出発する前なんか竜二の野郎に、
「おい、襟が曲がってるぞ。直すからじっとしてろ」
「あ、すみません」
「まったく、これからお前が行くところは金持ち
ばかりなんだぞ。少しは身なりに気を使え。
これだから新米は」
なんて朝っぱらから嫌味まで言われてしまった。
本当にあいつは嫌な奴だ。
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