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第16話 にわか探偵、始動する ②

「どうしたの松浪さん? 顔なんかしかめて」 「ううん、何でもないよ」 そしてこの隣の席の早川さんが今回の協力者。    早川さんのお姉さんが一昨年、自殺した。 検死解剖の結果、彼女の遺体からは尋常では ない量の覚醒剤が検出されたそう。 その真相を突き止め、もしこの一連の騒動が巧みに 仕組まれた事件なら、犯人を法の下に晒すために 協力を買って出たのだという。 それから、星蘭ではこの早川さんのお姉さんの他にも この3~4年で理由なき自殺をした生徒が少なくとも 3人はいるそうで。 そのうち1人からも早川・姉から検出された同量の 覚醒剤が検出されたという。    昔は覚醒剤の密売なんて大それた事、 やくざの専売特許みたいなもんだったが。 最近ではちょっと悪知恵が働き・機転の回る人間なら 自身で使うも、それを元に荒稼ぎするも自由自在な ようで。 やくざのように組織に縛られていない分だけ行動に 自由が利くせいか? 煌竜会の縄張りのように、そもそもドラックの売買 自体が厳禁されている場所でも禁止されているハズの モノが蔓延し、本職のやくざ達も公安やマル暴や マトリから目ぇつけられたり。 それまで友好的だった地元民にまで白い目で見られたり。 とにかく、えらい迷惑を被っているのだ。 女子がその大多数を占めるなんて一種特殊な世界、 というのはやっぱり全然分からないから、 彼女のような協力者がいて本当に助かった。 おかげで今のところ周囲に俺が内偵中である事も、 そもそも男であることもばれていない。 「それにしても口調とか変えなきゃいけないんだって 思ってたけど、そうでもないんだな」 最初のうちは「ですわよ」とか言わなきゃいけない のかなって緊張していたんだけど、 早川さんに「普通でいい」と言われてかなりほっ とした。 「結構男の子みたいな口調の子多いのよ。特にこういう 環境ではね。それに松浪さんって女の子ってわり には身長もあるし、ボーイッシュな方が自然だと 思うわ」 早川さんはにっこりと優しい笑みを浮かべる。    この子のお姉さんは何者かに犯され、 それを苦に自殺した。 たぶん早川さん自身もすごく辛かったに違いない。 早いとこ解決してあげたいな。 その一件が今回俺が内偵する事になった ヤクの大量密売とどう関係してくるのか? は まだ未知の領域だけど。 地元組織の関係者がこうやって潜入している事を 知っているのは、早川さんとこの学校の校長だけだ。 だけど、その校長にも潜入関係者が 男で女生徒に化けているとは教えていない。 何故なら、今回の任務では学校幹部達も 重要容疑者だからだ。    どちらも事件の早期解決を望んで、快く協力を 申し出てくれた。 その二人からの情報も含めて考えれば、 まず犯人が俺のように女子のふり=生徒の振りを しているという線は消えるだろう。 流石お金持ち学校だけあって、警備の面はかなり 優れているし、理事会の編入生選考もかなり厳しいから 部外者というのも考えにくい。 となると、あとは教師か、職員。 「この学校で人気のある先生ってだぁれ?」 「たくさんいるわよ。皆パートナーに飢えてるもの」 「ははは、じゃあ特に人気のある先生ってのは?」 「そうねぇ」 早川さんは顎に指をやって何人か教師の名前を 挙げていく。 俺も事前に調べておいた教師のリストを 思い出して、名前を挙げられた教師の顔を並べる。 とりあえず若ければ若いほど人気も高いみたいだ。    「でも、やっぱりダントツは英語のMrマーカスね」 「英語のマーカス先生? デイビッドマーカス?」 モデル張りのイケメンの顔が頭の中に出てきた。 日本人は老いも若きも白人アメリカンに滅法弱いんだ。  そんな優男に肩を抱かれ、甘い言葉を囁かれでもしたら 恋と男に免疫のない女の子なんてイチコロだろう。   見るからにすごく爽やかそうで、 女の子をクスリで黙らせ犯すなんて酷い男には とてもとてもみえないが、 人は見かけによらないのはよく知ってる。    「実を言うと私、前から彼が一番怪しいって 思ってたの。いっつも取り巻きが何人も くっついてて。でも、その取り巻きのせいで なかなか近づけないのよね」 「その取り巻きは皆んな女の子?」 「ううん、他校だけど男の子もいるわよ―― ってか、 最近男子が急に増えたわねぇ。何せMrマーカス って、あっちの人だって噂もあるくらいだし」   「あっちの、人?」 「だから、その……ほら……分かるでしょ?  アレよ」 「……あ、あぁ! アレ、ねぇ……」 要チェック、英語のデイビッド・マーカスは ”ゲイ”の可能性・大。     急に早川さんの表情が曇る。 「取り巻きの中にね、藤咲詩音って子がいるんだけど、 その子と私、幼馴染なの。小さい頃はよく、うちの 姉と3人で遊んだわ。だからお姉ちゃんの無念を 晴らすために協力して欲しいって、頼んだことが あるの。けど、にべもなく断られちゃった」 詩音~~っ?! ちょっと待て、その娘ってもしかして…… 「生徒会長さん、だったっけ?」 「えぇ、そうよ」 んでもってあつしの彼女。 だから、  奥の手使えば近付くのはそう大変じゃないと思うが。 それは、どうにも行き詰まってしまった時の奥の手だ。 でもこれでマーカスが第一容疑者。    何か探られて困ることがあるから、その藤咲って子 に断られたんだと思うし。 「じゃあこの話はこれくらいで。今日も色々と よろしく」 少し時間が経ったせいで徐々に生徒が 集まり始めた。 万が一こんな話、第三者、特にマーカスの 取り巻きに聞かれては大変だ。 「えぇ、よろしく、松浪〝法子〟さん」 母さん、事後報告でごめん。 母さんの名前、無断で使わせて貰ってます。

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