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第17話 にわか探偵、始動する ③

その日の昼休み、俺は早川さんに連れられて 学食へと向かった。 やっぱり金持ち学校は学食ですら豪華で、 むちゃくちゃ美味しい。 俺らの祠堂学院も一応は金持ち学校の部類に入るけど。 諸般の事情から俺は、一番安い購買のコッペパンで 空きっ腹を満たしていた。 (その頃、月いちの贅沢と言えば、いっつも売り切れ ちまうコロッケパンと焼きそばパンをコーヒー牛乳で 食べる事だった)     高級イタリアンにフレンチに中華に和食、 種類の多い中、A~Dまであるランチの俺は Cランチ、早川さんはBランチを取って、 開いていた席に向かい合わせに座る。 「どうにか学食メニュー制覇できないかなぁ」 「松浪さんって意外と食いしん坊?」 そんな他愛もない話をしていると、 「ねぇ、私たちもご一緒して良い?」 同じクラスの、柳瀬さんと初園さんがやって来た。    2人ともどうやら早川さんとは仲が良いみたいで 一緒にいるのを良く見る。 男の俺と張るぐらい背が高くグラマラスなのが 柳瀬さんで、背が低く仏頂面 (ちょっと若頭・手嶌を彷彿とさせる)のが初園さん。 「昨日から気になってたんだけどさ。あんたちって どういう関係なわけ?」 柳瀬さんは転校初日から親しくしている俺たちを 不審に思ったらしい。 すると早川さんが笑顔で答える。 「実は遠縁の親戚なの私たち。身内のパーティとかでも よく会っていたのよ」 遠縁の親戚! ナイスフォロー早川さん。 「えぇっと、柳瀬さんと初園さんだね?」 「ちゃんと話してもないのにもう名前覚えて るんだ?」 「それがさ、友達がまだ早川さんしかいなくて、 仲良くしてもらえるかな?」 こうやってクラスメイトと親交を深めておくのも 仕事の一環だ。 彼女らから情報を得たり、ターゲットに近付くのに 協力してもらったり仲良くしておいて損はない。    まるで女の子たちを騙し利用するみたいで、 ちょっとこういうのは苦手なんだけど。 「勿論よ。あ、なっちはいつもこんなんだから 気にしなくて良いから」 なっちっていうのは初園さんのこと。 柳瀬さんは笑ってOKしてくれる。 早速情報収集だ。 「あ、そうだ。英語のマーカス先生っているじゃん。 その先生が格好良いらしいって聞いたんだけど、 2人は見たことある?」 「勿論見たことはあるけど、直接話したことは ないなぁ。もう取り巻きが凄くって」 「らしいね」 「それに私もなっちもああいうの苦手なんだよねぇ。 そうそう園芸部の顧問やってるから、 温室に行けば見るだけならできるんじゃない?」 「温室? 何処にあるの?」 「旧校舎の裏に……どうしたの裕菜?」 突然、初園さんが柳瀬さんの袖を引いた。 小声で「史ちゃん、あそこ」と言ってる。    「あぁ、あいつがマーカスの取り巻きのまとめ役」 言って柳瀬さんが顎で教えてくれたのは、 ちょっとチャラそうな見た目の女生徒だった。    茶髪にウェーブをつけて後ろでポニーテール している。 結構美形だけど、俺の好みじゃないな。 確か名前は…… 「あの子が詩音よ」 早川さんの幼馴染、藤咲詩音。 そうか、あの子が……。      「まとめ役ってことは、取り巻きの中でも一番の 権力者ってことだね」 「そうなのよ。園芸部の部長もやってて、授業がない 時はいつも温室に入り浸ってるの。あいつの許可が ないと先生に近付く事すらできないって言う人も いるわね」 「でも、あの子は3年生だから、もうすぐバイバイ なの~」 あ、そっかぁ……星蘭は2学期制だから 卒業式は6月なんだ。 でも今年は創立記念式典や文部科学省の お偉いさんの表敬訪問で6月の卒業式は延期され、 9月の新学期開始前になったとか。 それにしたって、あと、3週間少々しかない。    だからこそ、今回の依頼者(=情報提供者)は、 一番事件と関係の濃い現3年生が卒業して しまわないうち、今回の問題を解決して欲しいと 急いでいたんだ。 ―― って、現実問題、それはかなり無茶だと思う だって、事件か? 事故か? すらはっきりして いない上に、大体の全体像すら掴めていないん だから。 どこから、突き崩していったらいいのかも、 わからない。    とりあえずはあの子との交流を深めるのが一番の 近道なんだろうか。 でも今のところ俺は早川さんサイドの人間だから、 接触は難しいかもしれない。 何せ幼馴染である早川さんが一度彼に阻まれている わけだから。 「じゃあ今度、顔だけでも見に行こうかな?  教えてくれてありがとね」 「他にも分からないことがあったら聞いて」 柳瀬さんはいい人で、おしゃべり。 初園さんは何考えてんのかよく分からないけど、 とりあえず俺のことは嫌ってないみたい。 でもこの2人を通じてマーカスに近付くのは 無理だと考えるべきだな。

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