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第20話 バックアップ陣営も行動開始
「―― 社長、内偵中の若から報告された
マーカスの身辺調査、上がってきました」
矢吹が手嶌の執務机の上に1冊のファイルを置いた。
「あぁ、サンキュ」
早速、それに目を通す。
「……お前はもう見た?」
「えぇ、一応」
「なんか、惚れぼれするくらいお綺麗な経歴だけどよ。
何となく、ピンと来ないよな」
「あ、社長もそう思われましたか。何となく、ですが
自分らと同じ匂いがするんですよねぇ、この男」
「ところで、国松からの連絡は?」
「今のところまだです。こちらから掛けてみますか?」
「いや、夕方まで待ってみよう。やっこさん、
急かされると途端機嫌悪くすっからな」
机上の固定電話のベルが鳴る。
内線だ。
『―― 社長、日下部先生より外線2番です』
手嶌は外線のボタンを押して対応に出た。
「おぅ、どうした?」
『国松が救急搬送されて来た。意識不明の重体だ』
「!! すぐ行く」
*** *** ***
時間は少々遡る ――。
急停止した救急車の後部から
ストレッチャーで処置室へ運ばれていく途中で
その男・国松はぼんやりと意識を取り戻したが
病院のスタッフと正常な言葉のやりとりが出来る
までには至らず、国松の処置と同時進行で
所持品の財布の中から取り出した運転免許証に
記載の緊急連絡先へ連絡が行き――――
**年前、国松が最後に起こした窃盗事件で
身元引き受け人になった日下部の元へ、
国松のピンチが伝えられたのだ。
国松はとんでもない大怪我を負っているにも
かかわらず ”大丈夫だ”と、言って起き上がろう
とするのを若手のナース3人がかりで押さえつけて
いる所へ日下部が到着。
『あ ―― 日下部、せんせ……』
「よっしゃ、意識はしっかりしとるようやな」
『たのんます……こ、れ……これ、を、てしまの
旦那に ――』
と、日下部へ自分の手の中でくしゃくしゃに
握りしめていたある紙切れを押し付け、
こと切れるよう、意識を失った。
*** *** ***
国松はそのまま手術室に運び込まれ。
廊下で待つ、日下部の元へ手嶌が駆け付けた。
「国松の容態は?!」
「一時的に意識が戻った時、奴からコレ、
お前にって渡された」
さっきの紙切れを手嶌に渡す。
それはタクシーカードだった。
「あいつ……なんでまた、そんなもん必死にお前へ
渡そうとしてたんや」
「……とりあえず、このタクシー会社に行って
みるわ」
国松はタクシーで何処かへ向かっている途中、
後方からトラックで追突された。
幸いタクシーの運転手はシートベルトとエアバッグ
のおかげで、おでこの擦り傷と両腕の軽い打撲症で
済んだが、国松は追突したトラックの運転手らしい
男に拳銃で撃たれてしまったのだ。
その男らが国松へ致命傷を与えられなかったのは、
(とどめを刺せなかったのは)
事故が割合賑やかな商店街の近くで起こった事と、
騒ぎを聞きつけた近所の住人達が率先して
タクシー運転手と重傷を負った国松の救護に
あたってくれたおかげだ。
そんな事故の経緯をタクシー会社に向かう途中、
佐竹に聞きながら、手嶌はさっき”もしや”と
思い浮かんだ事柄を、ほぼ100パーそうだと
確信していた。
おそらく、国松が向かっていた先は煌竜会事務所で
奴は今回の件について何か重大なネタを掴んだ。
タクシーに追突したトラック男は、そのネタを
こちらへ渡すのを何としてでも阻止したかったのだ
だから、まだ陽も高い日中、凶行に及んだ。
トラック男の方は会の連中に探させている。
よほど雲隠れが巧い男でない限り、
半日もあれば見つかるだろう。
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