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第26話

校舎沿いの遊歩道を通って正門へ向かう道すがら、 綱吉は職員室での俺の言動に感動しきりで 笑いが止まらない。 「ツナ……も、勘弁しろよ。笑い過ぎだ」 「だ、だってぇ……竜二恰好良すぎ。 惚れ直したかも」 「そりゃあどうも」 「ね、さっきの皆んなにも言っていーい?」 「勝手にしろ」 「……けど、竜二にはまた、助けられちゃったなぁ。 さすがは俺の恩人」 「ええっ?」 「やっぱ覚えてないか。ま、無理もないけど。 あの時俺はまだ中1だったから」 「……」  ***  *** 注!! これは、綱吉の中1の時の回想シーンです。 因みに今綱吉は、 先輩だけどのナヨナヨした感じの男子をカツアゲ中。 「オラっ、さっさと出せって言ってんだろ。 持ってるのは分かってんだよ。母ちゃんから 塾の会費貰ってきてるはず」 綱吉に胸ぐらを捕まれ脅されてる男子は 顔面蒼白で言葉も出せない。 「俺、あんまり気は長くはないの。 こうやって静かに話してるうち出しちゃった方が 自分の身のためだぜ? それとも、少し痛い目に 遭うか?」 そう言って綱吉が取り出したバタフライナイフに、 男子は余計怯え震えだす。 そこへ、若き日の竜二参上。 因みにこの頃の竜二は母校でもある**高の 合気道部の顧問をしていた。 「なにやってんだ!」 「ってぇ。何すんだよ、離せぇっ!」 竜二がチビ綱吉を取り押さえた隙に 脅され男子は逃げていった。 「ナイフは没収だ」 「それは俺んだぞ、返せよっ!」 「いいか、こんなもん人に向けるって事はな ――」 と、ナイフの刃先を綱吉に突きつけた。 「うわっ、危ねぇじゃん」 「自分が刺されても文句言えねぇんだよ!  良く覚えとけ」 そう言って立ち去ろうとする竜二の不意をついて、 綱吉は技を仕掛けるが、 いともあっさり返り討ち。 「あ、イタタタ ――」 「ったく、親御さんが泣いてるぞ」 「!!……」  ***  ***  *** ―― そして、現在。 「あぁ ―― あの時の事ね」 「えっ? って……覚えてるの?」 「当たり前でしょー、俺はあなたの教育係っすよ」 「……そっか」 契約農家さんの家へ挨拶回りに行った日から 竜二とはかなりギクシャクした感じになっていたが、 今日はこうして以前と変わらず話す事が出来て、 綱吉はその安心感から『良かった』と呟いた。 「……今日は少し遠回りして帰りますか。 ちょうど**堤の桜が見頃なんで」 「うん」 ***  ***  *** 土手沿いの遊歩道にある数百本の桜は、 今はまだ七分咲きといったところだったが、 そよ風にハラハラと舞う早咲きの桜は、 夕映えの薄紅色と相まって息を呑む程の美しさだった。 ちょうど自分の脇を通り過ぎていった、 5才位の子供の手を引く若い父親の後ろ姿に、 在りし日の父と自分の姿をオーバーラップさせる ――。 「ガキの頃、出勤前の親父とこの道を散歩するのが 一番の楽しみだった」 「雅史さんはホント桜がお好きでしたから」 「……ね、ちょっと前、小耳に挟んだんだけど、 親父に惚れてたってホント?」 「……黙秘権を行使します」 「もう*年以上は前の話しなんだから、 別に教えてくれてもいいじゃん」 「親父や兄貴達の言いつけを守る事で精一杯の 下っ端には、雅史さんの輝きはマジ眩しすぎた。 あの頃の俺にとって彼は高嶺の花以外の何者でも ありませんでした」 「ふ~ん……」 綱吉はその話しの続きを聞きたくて じっと竜二を凝視していたが、 竜二は苦笑を漏らし肩を竦めただけ。 「えっ、それだけなのぉ~? ―― う~ん……なんか また、上手くはぐらかされたような気がしないでもない けど……」 その時、吹き抜けた一陣の風が足元に溜まっている 桜の花びらをぶわぁ~っと吹き上げ、 その景観に綱吉はうっとりとした視線を向けた。 「わぉ、すっげぇ……」 「……」 キラキラして見えたり、触ってみたくなったり…… 所かまわず押し倒したくなったり ――っ、 急に真顔になった竜二が自分をじっと凝視 しているので、綱吉はなんだか不安になる。 「……りゅう、じ?」 (そろそろ俺も、白旗挙げるべきなのか?) 綱吉の華奢な体はちょっと力をこめ引っ張っただけで、 いとも容易く自分の腕の中へすっぽり収まった。 その肩を抱いた手にゆっくり力をこめていくと、 綱吉の体がほんの少し強張った。 普段どんなに虚勢を張ってはいても、 根は17才の純情な青年なのだ。     だから、欲と血にまみれた自分の手では 穢したくなかった。 (やっべぇ ―― めっちゃキスしたい……) その時、たまたま女子高生のグループが 土手を上がってきたので、2人はパッと離れた。 が ――、     『ちょっと、今のアレ、見た?』 『見た見たっ。やっぱアレってリアルBLよね~』 『すんごくイイ雰囲気だったじゃん』 『やぁん、 なんだか変な想像しちゃうじゃなーいっ!!』 ヒソヒソ話す女子達の声は、綱吉と竜二にもかろうじて届く。 (―― 女子、怖っ……) 「……あ、、そろそろ、車へ戻ろうか」 「う、うん、そう、しよっか……」 (キス、してくれるのかと思った……)

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