29 / 46

第29話 All of Me

まったくっ! …… 今日は、散々だった。 ゼミの課題再提出を宣告されてしまった上に、 ペナルティとして廊下に立たされ(小学生か?!) 次なるゼミの集会でも信じられない凡ミスの連続。 伊達に記憶がないだけに、妄想だけが頭の中で 全開になり。 まるで無関係の男子との何気ないやり取りや 触れ合いだけで、勝手に体が過剰反応してしまって 皆んなから凄く変な目で見られたり。 出来るだけ男との関わりを避けようってしていても、 それはどだい無理なハナシで……。 「―― あ~、やっぱり松浪さんって真面目ねぇ」 ランチは購買の菓子パンと牛乳で手早く済ませて、 空いた時間を屋上で日向ぼっこしながら、 レポートを片付けていたら。 東堂さんにそう声をかけられた。    (ココは因みに星蘭女学館です) 「ううん、そんな事ないよ。レポート再提出だもん」 「あー、私もこの前のはかなりヤバかったなぁ」 「「フフフ……」」 2人、顔を見合わせ何となく笑ってしまう。 「あぁ、東堂先輩 ――」という、 声に顔を向ければ。 昇降口に1人の女子が立っていた。 「あら、**さんどうしたの?」 どうやら東堂さんとは顔見知りらしい。 「三島先生が学生総会について打ち合わせしたいって 言ってます」 各ゼミの代表者となる学生は学生総会でも 役員になってる。 「ありがと、すぐ行くわ」 ”それじゃあね”と、東堂さんが去って 入れ違いに、学校とは一番縁遠そうな人が やって来た。                               「! り、竜二……」 「何だよ。俺が来たのがそんなに珍しいか?」 「あ、いや……」 「うちの社で扱ってる食材を、今度ここの学食でも 使ってもらえる事になってな。今日は初回の配送が あってついでにくっついて来た」 「あぁ ―― さい、ですか……」 (でも、単なる配送に社長が?)    「お前は?」 「は?」 「それ……」 彼の視線を辿ると俺の膝の上にあるレポートに 注がれていた。                                   「あ、あぁ ―― ゼミの課題です、けど」 彼は俺のテキストを覗き込むようにして、 すぐ真横に腰を下ろした。 とっさに少し距離をとる。 わざとしているのか?  彼はその距離を縮めてきた。 俺は更に距離をとる。 「……お前さ、ちょっと前からみょーに俺の事 避けてねぇ?」 何か、彼の俺を見る視線が変わってきたような 気がして、急に心臓がドキドキし始めた。 ちょ、ばか、何意識してんだよ……。     「気のせいでしょ」 「なら、ひとつ、いい事教えてやろーか?」 それまで視線を泳がせてばかりいた俺が、 初めて彼を直視した時。 「もーうっ、社長ったらまたタマゴちゃん  イジメてたのー」 と現れた、 派手なボディコンスーツがトレードマークの **女史。 総務課の会計係をしている三十路の 小母さん職員だ。 「やだなぁ~、そんなんじゃありませんよー  **さん」 「も~うっ、そんなよそよそしい他人行儀な呼び方は  止めて下さいな」 ―― って、他人じゃん。  予鈴が鳴ったので手早くテキストをまとめ、 腰を浮かしかけたら。 その俺の襟首を竜二がむんずと掴んだ。 「ちょ、て、手嶌、さん ――  まだ何かご用ですか?」 「今夜もフィガロで待ってる」 「お断りします」 「その課題、俺様が直々に教えてやるよ。  幸い理数系は得意中の得意だ」 「いいえ~、手嶌さんだってお忙しいのにそんな……」 「分かったな。必ず来いよ」 と言って襟首を掴んでいた手は離してくれた。 「相変わらず強引ねぇ」 って、構ってちゃんモード全開の**さん。    「それが俺のいいとこなんっすよー」 だって。 あぁ、アホらし。 2人で死ぬまでイチャついてろ。 『 ―― 分かったな。必ず来いよ 』 絶対、絶対に、行くもんか!

ともだちにシェアしよう!