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第30話 やり場のない想い

週末。 本来なら今頃は、京都行きの新幹線に揺られている ハズだった。    『―― あ、もしもしツナ。ごめんっ!  和馬のアホが家の屋根から落ちて足の骨折った  って。せやからユニバ行けんようになってしもた』     『何言うてんの! そんな事はどうでもええから  長谷川さんに付いててあげな』 ―― って事で。 どうせマオや朋也らは休暇で実家に帰省。      年末年始はみっちり自身のスキルアップに 充てるつもりでいた。 なのに! 『今夜フィガロで待ってる』 『 ――必ず来いよ』って、竜二の誘いを すっぽかしたら、 こともあろうに理事長から直呼び出しがかかって。 まさか、聖職者である理事長とヤクザまがいの優男が 裏で繋がっていた、なんて、夢にも思わず。 一体何事やろ??と、呑気に出向いた学校の 応接室で俺を待っていたのは 大林理事長と竜二。 理事長は俺を室内へ迎え入れると 「それじゃ、後は頼みましたよ」と意味深な言葉を 竜二へ残し、そそくさと出て行ってしまった。 「……俺は心の広い男のつもりだから、過ぎた事は  根に持たない主義だ」 はぁ、そうですか。 「しかし、約束をすっぽかされれば当然その理由が  気になる……昨夜はどうして来なかった?」 しっかり根に持ってるじゃん。 「でも、それで、わざわざ理事長を通してまでの  呼び出しは度が過ぎてるんじゃないですか?」 竜二はゆっくり立ち上がって、俺がまだ佇んでいる 戸口へやって来た。 「ほんなら、直接自宅へ行った方がよかったか?」 いや、そんな事をされたらえらい騒ぎに なってしまう。 ただ存在してるというだけで、この男は 目立ちまくりなんだ。 「ホント、ツレナイよなぁ~……この俺がここまで  好意を示してんのに」 「あなたのは好意ではなく、ただのセクハラです」 「お前、シラフだと(ほ)んっと可愛くねぇな。  ま、酒が入っててもかなりの毒舌だったが」 俺はつい、あの翌朝の情景を思い浮かべてしまい、 かぁぁぁっと赤面。                                   「あ、またお前何かヤラシイ事考えてたろ~……  欲求不満なんじゃね?」 「しっ ―― ?*!★(失礼な――ッ) お話しは  それだけなら失礼させて頂きます」 顔が異様に熱いのは、羞恥からか?  彼へ激昂したからなのか? 何がなんだか自分でも分からなくなり、 踵を返したけど。 彼が俺の背後から手を伸ばしドアを手で 押さえてしまったので、開ける事が出来ない! 俺より頭ひとつ半分ほど背の高い竜二が至近距離に (ってか、ほとんど密着状態で) 傍に立つと、必然的に彼は俺を見下ろす恰好になる。 俺は早鐘のようにドキドキし始めた鼓動を 竜二に勘づかせないよう、ゆっくり彼を見返した。 すると、竜二は俺の目をじっと覗き込む ようにして、その顎に手を添えるとやおら 口付けてきた。 「!! んン、ちょ……っ!やめ ―― 」 俺は腕を思いっきり突っ張って 竜二を押し戻した。 「いきなり何すんだよっ」 「じゃ、予告でもすりゃ良かったか? お前ってさ、  何だか無性にいじりたくなるタイプなんだよなぁ~」 「ふざけな ――」 言いかけた俺の唇に、懲りもせずまた 自分のソレを重ねてきた。 しかも今度のはかなり濃厚なべろチュー。 「やだ……って!」 抵抗しようとする俺をドアへ強く押し付けて 強く舌を吸われる。 「やめっ ―― ん……っ」 俺の顔を両手で包むと、深く舌を入れてくる。 引き離そうと竜二の腕を掴むが力は入らない。    「は……っ……あっ……や」 す、すごい…… あっという間に思考は混濁 ―― 情熱的な竜二の口付けに腰は砕け、 立っているのもやっとになった頃。    部屋の扉がノックされ。 竜二は名残惜しそうに俺を放した。 「続きがお望みなら今夜俺んちへおいで。  場所は分かってるよな?」 「……」  ***  ***  ***                                あれから ――。 学校の応接室を後にして、一体どうやって自宅の 自室へ戻って来たのか? よく覚えていない。 それだけ、竜二との口付けは鮮烈で衝撃的で…… 夕方5時近くなって、俺を迎えにきたマオが LDKの電気を点けてくれるまで カウチソファーで呆然と座っていたんだ。 「どうしました? 何かったんですか?」って聞かれ。 「別に何もないよ」なんて、答えても。 この時の俺の様子は誰が見ても普通じゃなくて、 何かあったのは一目瞭然。 けど、祖父ちゃんと**年来の付き合いがある 笙野組長が溺愛する孫の姫奈ちゃんがプレゼンテーター を務める映画祭へ出かける時間が迫っていて。 「さぁ さぁ。開場まであと1時間もありません。 ちゃっちゃと用意、しちゃって下さい」 と、急かされ、マオが持参してきたフォーマルスーツに 着替えた。

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