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第33話 ふたつの心が重なって……

もう既に切れてしまったスマホを握ったまま 綱吉は固まっていた。 「……りゅうじが、来る……ここへ?」 ハッと我に返って自分の姿を思い出し、 部屋に備え付けの方の狭いユニットバスへ飛び込んだ。 鏡に映る腫れぼったい瞼に、深いため息。    おっと! こんな事してる場合じゃない。 バシャバシャと冷たい水で顔を洗い。 アイスパックで瞼を冷やす。 あぁ、早くしなきゃ間に合わない。 もう1回シャワーする? 時間がないっ。 じゃ着替えが先? それとも部屋の掃除? 夜中の1時近くにバタバタと騒々しい事この上なく。 無駄に部屋中を右往左往していると ―― ”ピンポ~ン”玄関のドアチャイムが鳴って、 綱吉はだるまさんがころんだ状態で ピタリと動きを止めた。 玄関先では蒼汰が対応に出たようだ。 (だけど俺はまだ、パジャマのままだし、  布団だって敷っぱなしだし) パタ パタ パタ パタ ―――― 外廊下を誰か(多分、竜二)のスリッパの音が 近づいてきた。 そしてドアが静かにノックされ、 綱吉は小走りで戸口へ行きドアを開けた ―― 「コラッ、来訪者の確認はしたか?」 「あ……」 「これだから1人じゃ放っとけねぇんだよ」 って、いたずらっぽくニッコリ微笑み綱吉を そっと抱き寄せた。 「りゅじぃ……」 汗とタバコとアルコールの混ざり合った香りが 綱吉を包み込む。 ホッとして気が緩んだ綱吉の瞳から 堰を切ったように大粒の涙がポロポロと 溢れ出る。 ホントに泣き虫なんだなぁ……呆れたように苦笑し 竜二は綱吉を宥めるようその背中を何度も撫でた。 「ヒック ―― ごめ、なさい……ホントにごめ……」 「もういいよ。泣くな、お前に泣かれると 俺はどうしたらいいか分かんなくなる……」 「りゅうじ…… 好き……大好き」 聞き返したくなるほど小さな声だったが、 それは、竜二の耳へ心へ、確かに届いた。 それに対する竜二の答えは ―― 「愛してる、綱吉」 その言葉に応えるよう、綱吉は自分から 竜二に唇を重ね合わせた。  ***  ***  *** 朝、目が覚めたら綱吉はまだ俺の胸の中で スヤスヤ眠っていた。 そ~言えばここんとこ、 綱吉の通学の方が早かったので こうして、こいつの寝顔を見るのは久しぶりだ。 長いまつ毛に少し赤味がかった褐色の髪、 まだ中坊だと言われても納得がいくような童顔。 心から『可愛い』『愛おしい』と思える唯一無二の 存在。 この手嶌竜二に限って ”愛してる” だなんて 陳腐な言葉は吐かないと、固く心に決めていたが。 自分が本当に心から恋焦がれる相手を目の前にした時 この自分の熱い胸の内を素直に伝える言葉は、 それしかないと初めて気が付いた。 ”愛してる 愛してる 愛してる ――” いくら言っても言い足りないくらい、愛してる。 ん、ここは自分の理性がまともに動いているうち ベッドから抜け出た方が良さそうだ。 このままいたら、絶対こいつを襲う自信がある。 いや、昨夜のこいつの言動から考えれば、 別にそうしてもいいんだろうが……俺にだって 一応男のプライドってもんがある。 一番のごちそうは最後までとっておくもんだろ。 綱吉の頭の下から腕を出来るだけそうっとどけて、 ゆっくり身を捩る。 「んん……っ」 と、まるで”1人にするな”と言わんばかりに、 綱吉が俺に擦り寄ってきた。 『うっ ―― ツナ、今はちとマズい……』 心の中で抵抗の声をあげ、必死に綱吉の腕を 剥がしていく。 ところが! 事もあろうに綱吉は自らの股間を俺の太腿の辺りに 押し付けてスリスリと擦り始めた。 『どわっ、こりゃ我慢大会かよ……』 ゆっくり深呼吸して自分を落ち着かせる。 ……朝だし、ただの生理現象だよな、コレは。 可愛い寝顔には不釣り合いな、 固く雄々しいモノを擦り付けて、 スリスリと擦り始めた。 「この、バカ……人の気もしら……」 綱吉の寝ぼけ半分の暴挙は続き ―― 「……りゅじぃ……」 甘ったれた口調で名前を呼ばれた。    こいつ、夢の中でまで俺を……ブチッ。 この瞬間、理性の枷は外された。

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