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第36話 若を取り戻せ!
綱吉が何者かに拉致された、との連絡を受けた
煌竜会総本部は上を下への大騒ぎになった。
収容された病院から朋也を連れ、
竜二が本部へ戻ると、丁度、佐竹・西嶋・橘ら
頼もしい同僚達もそこに駆け付けていた。
佐竹は親父の傍らに立ち、
何やら脇にファイルを抱えながら手には厚みのある
封筒を持っている。
「あっ、竜二! 丁度良かった、朋也も一緒ですね」
「何だ」
「ちょっとこれを見て貰いたくて」
親父に一礼しながら近付けば、
机の上に佐竹が封筒から取り出した物を乱雑に並べた。
―― それは写真であった。
人相風体もバラバラのザッと見て20名ばかりの
男達の写真である。
「朋也、この中にお前を襲った奴はいるか?」
そう佐竹が聞くと、
朋也は途端に真剣な眼差しで写真を見出す。
「佐竹、この写真の男達は何だ」
「大河内組の組員じゃ無いですが、
一応、過去に大河内と関係があった奴等です。
かき集めるのに苦労しました。何せ、大河内自体、
あまり目立った男じゃ無かったもんで」
「こんなにいるのか?」
「奴は2代目大河内の養子になる前、
族みたいのを作って荒れていたみたいですね」
「その時の仲間か」
写真の男達は、サラリーマン風のもいれば
チンピラ紛いの奴もいて、年齢も様々だ。
中には家族らしき人物と一緒に写っている奴もいた。
朋也は1枚1枚手に取って真剣に見ていたが、
ある1枚に手を伸ばした所で大きく目を見開いた。
「こっ、こいつです! この男がツナさんを」
「どれだ」
朋也の手から引っ手繰るようにして奪った写真には、
優男風の人物が写っていた。
親父にも手渡せば、繁々と写真を見詰めている。
「あっ、こいつもそうです。後は……」
朋也がたくさんの写真の中から取り上げたのは、
合計で4枚の写真だった。
「この3人がおいらに襲い掛かって来た奴等です。
ですが、運転手は顔が見えんかったので」
「いや、こいつ等が分かっただけでも収穫はあったさ」
「おい、橘。そいつ等の身元は」
「大丈夫です、おやっさん。
ちゃんと調べてありますから」
そこで佐竹が取り出したのは、
小脇に抱えたファイルだった。
それによると、綱吉を拉致った男は白石と云い、
大河内が作った族の中でも相当奴に
気に入られていた男のようだった。
朋也を襲った3人は吉岡、高田、安川と云う男達で、
白石の謂わば駒のような存在だ。
大河内が作った族を奴が抜けた後、
引き継いだのが白石だ。
今ではそれも解散してしまったようだが、
吉岡達3人は今でも白石に付いていて、
仕事も白石の実家である『白石警備保障』と云う会社に
就職している。
「多分、運転手はこの男だと思います。
この黒木と云う男も、
3人と同じように白石の会社に就職した奴ですから」
橘がそう云いながら、
写真を1枚摘み上げると先の4枚に加える。
合計5枚の写真を見下ろし、
その顔を目にしっかりと焼き付けた。
こいつ等が俺の嫁を攫ったのかと思うと、
今直ぐにでも奴等を探し出し目の前に引き摺り出して
自分達の仕出かしたことを後悔させてやりたくなる。
だが、肝心の奴等の居場所が分からないのでは
どうしようも無いのだ。
「橘、こいつ等の居場所は」
「寝ぐらは分かりますが、
恐らくそこに若はいないと思います」
「なら何処だ」
ついつい語気が荒くなってしまいそうになるのを
懸命に抑えて問い掛ける。
悠長にここで話してしている間にも、
綱吉がどんな目に遭っているかと思うと堪らないのだ。
「大河内の方は引き続き張っていますが、今の所、
まだ動きはありません」
「あの、白石の会社って云うのは、
関連施設とかは所有してねぇのか?」
そんな親父の発言に、橘の方へと視線を向けた。
「橘、白石の会社の規模は?」
「まぁ、そこそこの大きさではありますが ――」
「なら、保養施設とか何かしら持ってるだろ」
「直ぐに調べます」
そう云って、部屋を出て行こうとした橘の背に声を掛けた。
「橘、人手が足りなかったら適当に若いもんを連れて行け」
「はい、助かります」
橘の姿が消えると、視線を今度は西嶋と朋也に向ける。
「西嶋、お前は朋也と一緒に車の方を当たってくれ。
朋也、車のナンバーや車種は覚えてるんだろ?」
「はい、覚えてます」
「ならば、白石達の犯行だとの決め手を掴め」
「「はい」」
2人も執務室を出て行く。
自分もここを飛び出して行きたかったが、
その気持ちを抑えてイスに腰を下ろした。
綱吉を狙った奴等が憎い。
だが、同時に自分がもっと早く綱吉を安全な場所へ避難
させていれば、あいつはこんな目に遭うことも
無かったのにと思えて仕方が無かった。
綱吉の立場を分かっていながら、
綱吉を危険に曝したのは自分なのだ。
今更どうこう云っても仕方が無いことだと思いながらも、
そんな思いが拭えない。
「竜二。お前の気持ちは分かるが、今は落ち着け」
「落ち着いてますよ。俺は十分……。
そうじゃ無かったら、ここでこんな風に
ジッとなんかしていませんよ」
「あぁ、そうだな。ツナはちゃんと見付かる。
ちゃんとお前の元に帰って来る」
「当たり前っすよ。あいつは俺が絶対に取り返します。
でも、あいつが今頃、どんな目に遭ってるかと
思うと……」
握り締めた掌に、自分の爪が深く喰い込む。
大丈夫だ、綱吉は無事だと云い聞かせようとしても、
もしもと思ってしまう気持ちが止められないのだ。
「俺があいつに……、ツナに関わらなかったら ――」
「馬鹿野郎、そんなこと今考えてどうする。
ツナの亭主なら男らしく腹をくくって時を待つんだ」
「おやっさん……」
今考えるべきことは、
綱吉を何としても無事に助け出すと云うことで、
弱音を吐くべきでないことも良く分かっている。
それに、親父の云うように、
もう自分と綱吉は関わってしまったのだ。
今更それをなかったことには出来ないのである。
「……すいません、自分らしくない弱音を吐きました」
「いや、儂だって久が同じ目に遭ったら、
きっとお前と同じ事を考えたと思う」
「おやっさん」
「だが今は、ツナが無事だと願おう。必ず取り返すと。
大丈夫、ツナとて伊達に極道の家で暮らしてきた
訳じゃねぇ。きっとお前が助けに来るのを信じて
待ってるさ」
「へいっ!」
待ってろツナ、必ず俺が助けに行ってやる
と、心に誓い、
竜二は憎き男達5人の写真を睨み付けるのであった。
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