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第39話 突破口 ②
手嶌は橘から白石の研修施設の地図と見取り図を
受け取ると、竜二を始めマオ・西嶋他、
数名の腕の立つ者を引き連れて多摩に向かうため
車に乗り込んだ。
(―― どうか無事でいてくれ、ツナ……)
怖くて震えているだろうか?
泣いてはいないだろうかと思うと、
どうしても気持ちが急いで仕方が無い。
綱吉に傷1つでも付けていたら、
たとえ親父との約束だとしても守る事なんて
出来ないだろう。
絶対に無事に取り戻すと思いながらも、
最悪な想像が消えてなくならない。
「陣内の方からはまだ何も云っては来ないか?」
「はい、まだ何も。こちらから掛けてみますか?」
「あぁ」
陣内には今回の拉致とは別件だが、
跡目相続争いに深く関連するであろう懸案事項を
調べさせている。
「社長、繋がりました」
「貸せ」
マオから携帯を受け取ると、それを耳に押し当てる。
「俺だ、何か分かったか?」
『えぇ、社長の読み通りでしたよ。**の野朗、晴彦に
脅されて仕方なく嘘の診断書をでっち上げたと』
「そうか」
父親の円谷医師は誰からも信頼されていた人格者
であったが、息子の琢磨は父の跡を継いで九条家の
お抱え医師になったものの。
ただ”国試に受かっただけ”というやぶ医者に
その役職は重過ぎたようだ。
あっという間に酒と女とギャンブルに溺れ。
結果、晴彦の食い物になった。
*** *** ***
車は中央自動車道をひたすら突き進む。
幾つかのインターを過ぎると、
遠くに見えていた雑多な街並みが
どんどん近くに見えて来る。
だが、目指す地はまだ遠い。
「おい、あとどれぐらい掛かるんだ」
「そんなに混んでいませんから、
1時間は掛からないかと」
「1秒でも早く着けろ」
綱吉が連れ去られてもうじき1日が経とうとしている。
楽観的と云われてしまうかも知れないが、
移動中に綱吉が危険な目に遭う確率は低いだろうと
思っている。
何かあるとしたら、それは目的地に着いてからだ。
そうなると、今まさに綱吉にとっては危険な時
なのではないだろうか。
本来なら、綱吉を餌に自分を呼び出す電話なり
何なりして来る筈なのだが、
それが一切来ないのがおかしい。
奴等の目的は自分を排除することであろう。
それなのに、どうして何も云って来ないのか。
そう思っている所で、懐の携帯が着信を告げて来た。
取り出し液晶画面を見れば、それは親父からである。
もしや、やっと向こうから連絡が来たのか
と、慌てて携帯を耳に押し当てる。
「手嶌です」
『連絡が来た』
「綱吉は無事なんでしょうか?」
『……いや、電話にツナは出なかった。
出せと云ったんだが、信じないならそれでいいと
云いやがってな』
「そうですか。それで?」
『お前1人で来いってさ』
「場所は?」
『午後7時。場所は ――』
そこで親父が口にした場所は、
多摩や狛江と同じく23区郊外ではあるが自分達が今、
向かっている目的地とは離れていた。
恐らくは、向こうもさすがに白石の会社の所有する施設
では拙いと思ったのだろう。
それと、午後7時を指定して来たと云うことは、
自分達の身元がまだバレていないと
思っているからなのではないだろうか。
今から*時間後と云うのは、
総本部から目的地までに掛かる所要時間である。
「奴等はオレらがもう近くまで来ている事を……」
『あぁ、分かっていないんだろうな。綱吉を捜して
右往左往していると思い込んでいるようだった』
「大河内の方は?」
『動くだろう。多分、お前を呼び出した方に行く筈だ。
そっちはこちらで対処する。
だから、お前達は綱吉を奪還しろ』
「へいっ! もう間もなくこっちは目的地に着きます。
必ず、綱吉 ―― 5代目を奪い返してみせます」
『あぁ、朗報を待ってる』
携帯を閉じると、
同乗の竜二とマオらに状況を説明する。
奴等はまだ直ぐ傍まで自分達が迫っている事を
知らないのだ。
つまりは、まだ油断していると云うことである。
「敷地内へは車で乗り込むな。油断しててくれるなら、
その隙を狙うまでだ」
「ですが、見取り図を見る限り、
敷地はかなりの広さです」
「それでもだ。車で乗り付けりゃ、
相手に警戒する時間を与えちまうだろうが。
他の奴等にもそう伝えろ」
マオは直ぐに携帯を取り出し、
後続車に乗っている奴等にも
自分の言葉を伝えていた。
それから数十分、目の前にはまるでゴルフ場のような
構えの施設の入り口が見えて来た。
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