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第44話 記憶のカケラ
それから綱吉とあつしは、
朋也に言われた最上階の部屋へ入った。
何事にも順応の速いあつしは、
もう自分の自宅のように寛いでいるが、
綱吉はこの部屋に入った瞬間から
デジャブ=既視感(きしかん)に似た
感覚に捉えられていた。
―― ココ、初めてじゃない……。
ゆっくり部屋を見て回り、
最後の部屋にあった仏壇の前に座った。
位牌に記されている戒名は”芳蓮院妙優日雅大士”。
綱吉の父親の物だ。
「父さん、何とか無事に退院出来たよ」
お線香をあげて手を合わせる。
(なんだか信じられない……
ホントに父さん死んじゃったんだ)
こうして位牌を目にすると現実に背を向けたくなる。
(これからずっと1人ぼっち……か)
無性に寂しくなる。
その時ふと頭の中に誰かが横切った。
ガタイのいい男の人 ――
「今のは……」
考えたとたん、ズキンッと頭の奥に激痛が走る。
「うっ ――」と、綱吉は頭に手をあてる。
思い出そうとするとすぐこうして痛くなる。
「まただ……」
あれから何度もぼんやりと頭の中に現れる男の人。
顔ははっきりしない。
ただいつも俺の名前を優しく呼ぶ。
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『ツナ……』
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その声を聞くと胸が苦しくなって熱くなって ――
切なくなるんだ。
目線が落ちた膝下へ、ふと目が惹きつけられる。
膝上に置かれた左手に光るのは……へ??
コレって、け ―― 結婚指輪?
左手の薬指だ。
あまりにジャストフィットで、
今までは気にも留めなかった。
……普通こんな物、
パートナーがいなきゃハメないよな。
じゃ、俺にはそうゆう人がいたって事か?
もしかして、
それがいつも頭の中に現れる、男の人……。
『――当たり前でしょー、俺はあなたの教育係っすよ』
これは、昔の記憶?
少しずつ以前の生活を取り戻していく中で、
同時に記憶も断片的に少しずつ蘇り始める。
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