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その日も「おそようさん」状態で二度寝から目覚めた紅唯千は辰巳と朝昼えっちに……。 「オーナー」 「うぎゃっ!」 ダイニングでにゃんにゃん発情しかかっていた紅唯千はどびっくりした。 二人きりでいたはずの別荘に気配もなしにいきなりぬっと顔を出した闖入者に心臓が止まるかと思った。 エンジン音が静かな外車で乗りつけてインターホンも鳴らさずに別荘へ入ってきたのは辰巳の配下で、しかも二人いた。 「連絡繋がらないし、来たら殺すって言われてましたけど来ちゃいました、テレビ見てないんですか、叔父貴捕まりましたよ」 「叔父貴ってどの叔父貴だ」 「……西の叔父貴」 どっからどう見ても堅気リーマンにしか見えない眼鏡をかけた美沙都、極端に口数の少ない黒短髪長身の亜難、どちらも若頭を担っている。 組員に自分をオーナーと呼ばせている辰巳は延々と消されていた、一体何インチなんだ大の液晶テレビを点けた。 昼前のニュースで大物暴力団幹部逮捕というテロップを目にすると安定剤代わりのハードな清涼剤をぼりぼり食べる。 「会長が招集かけました」 「……辰巳さん」 眼鏡と無口を交互に見、所在なさそうに隅っこに立つ紅唯千を見、辰巳は決めた。 「亜難、運転しろ、美沙都、お前は残れ」 「オーナーの恋人のお守りですね、渋々わかりました」 「お守りに亜難は万が一ってことがあるからな」 そうして辰巳は行ってしまった。 「明日中には戻ってくる」 滅多に見せない優しい笑みで紅唯千を丸ごともれなくぞくきゅんさせて。 「美沙都さん、海行かない?」 「日焼けするからイヤ」 「じゃあお土産見たい、街連れてって」 辰巳は海にも山にも街にも行かず、この別荘でずーーっと……だったので、彼がいなくなったことで淋しさよりも解放感を得てテンションの上がった紅唯千は。 美沙都に車を出してもらってドライブへ。 辰巳さんと一緒いるの楽しいけど、それはそれ、これはこれ。 そんなわけでドライな美沙都をお供に花柄ワンピをひらひら翻し、色鮮やかなペディキュアをキラキラさせ、陽射しが燦々と降り注ぐ初めての街を満喫した。 辰巳にもらったお小遣いには手をつけずに、自分が持ってきていた今月分のお小遣いを半日で使い果たして。 日も傾き始め、さぁ帰ろうかと思った矢先、紅唯千の視線はふと引き寄せられた。 大抵の通行人ならばスル―する、角っちょにある、ふるくさーい今にも潰れそうな生活用品店に。 「あそこで最後にすっから、美沙都さん、ちょっと待ってて」 両手に持った荷物をがっさがっさ言わせて駆け込む紅唯千、凶犬ならぬ凶猫の美沙都は無関心よろしくソフトクリームをのろのろ食べ続けるのだった。

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