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紅唯千が行きたかったイベントというのは。
<これから津々浦々より集合しましたご当地ゆるキャラたちのかけっこ競争が始まりまーす>
「ほらほらほらほら! あれ見てよ辰巳さん!」
「ありゃあなんだ」
「××県のめっちゃ有名なゆるキャラだよ! 実物はんぱねーー!」
ご当地ゆるキャラのおまつりだった。
なかなかの賑わいであり、可愛かったりヘンテコだったりなきぐるみがチヤホヤされている様に辰巳は首を傾げっぱなし、紅唯千は目を輝かせっぱなしだった。
人の輪ができていた人気ゆるキャラに抱きつく紅唯千、渡されたスマホでパシャリしてやる辰巳。
「ありがと、辰巳さんっ……て、あれ!? 顔写ってねぇ! 足だけじゃん!?」
「うるせぇ」
「ひでぇッッ」
秘かにヤキモチをやいて些細な意地悪をした辰巳に紅唯千がプンスカしていたら。
わいわいがやがや、始終和やかムードのメイン会場外れで何やら一悶着か、急にざわざわ騒がしくなった。
どこか様子がおかしく紅唯千もつられてそちらへ向かおうとしたのだが。
「酔っ払いが暴れてんだろ」
辰巳は紅唯千の腕をとると逆方向へ。
もちろん暴れているのは酔っ払いなどではなかった。
「……美沙都、やり過ぎだ」
「ぷはーーーっ。あっつい。よくこんなのかぶって動けるなぁ」
自分達が痛めつけた敵組員とはまた別の敵組員が懲りずに辰巳達を付け狙っていたので、よいこが見てはいけない脱皮きぐるみを見つけた美沙都、ささっとお借りして、一暴れしてきたのだ。
「だけどオーナーも考えてほしいね。何もこんな状況下に無理してデートしなくたって」
「……お前、俺と三ヶ月会わないでも平気か、美沙都」
「え? 三ヶ月? 亜難不足で野垂れ死ぬと思うけど?」
付き合っている若頭同士はイベント会場の死角で何気に愛を確かめ合うのだった。
「最後は。どこがいい、コイ」
「……どこにも行きたくない」
「どこにも、か」
「だって、最後、やだもん。辰巳さんとまだいてーもん。だからどこにも行かねー」
「いい考えだな」
じゃあ俺の行きたいとこに行っていいか。
暮れてきた街の雑踏で向かい合った辰巳に問いかけられて、紅唯千は、渋々こっくり頷いた……。
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