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二時間半後、紅唯千は山間に広がる閑静な温泉街の一角に建つ老舗旅館の別館にいた。 ここ数年で併設されたという、客室がそれぞれ独立した離れタイプ、落ち着いた古風な本館とはまた違う和モダンな佇まい。 中でも露天風呂つきの箱庭は雰囲気満点、しっぽり感に漲っていた。 「すごい! こんなとこにお風呂あるよ辰巳さん!」 寝室からも見える露天風呂に窓ガラス越しに夢中になる紅唯千、バッチリ女装している、念のためスクールバッグに常備しているコスメグッズでメイクの方も完璧だった。 「あれお湯出しっぱなしみたいだよ!? いーのかな!?」 「源泉かけ流しなんだろ」 「へー!!」 殺伐たる日々をひたすら突っ走っていた辰巳。 サングラスを外し、男らしい体格にダークスーツを纏った組長彼氏は、無邪気にはしゃぐ紅唯千を後ろから抱きしめた。 「飯食ったら一緒に入るぞ」 頑丈な両腕の中に閉じ込められて紅唯千は一瞬で赤くなった。 「何なら露天風呂で夜通しハメ倒すか」 「の、のぼせて死んじゃぅ」 「お前の心臓までよがらせて、すぐ蘇生させてやる」 「わぅぅ~……」 俯いて照れて鳴いた紅唯千の耳たぶに辰巳は噛みついた。 「後でもっと鳴かせてやる」 耳が妊娠しちゃいますよコレ。

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