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5-番外編-若頭なふたり
旬のフルーツをふんだんに使ったタルトや繊細な細工が視覚的にも堪能できるケーキなど、色とりどりの別腹おやつがずらりと並んだホテルのスイーツバイキング。
休日ということもあって多くの女性客でひしめき合う中、やたら注目を浴びている人物がいた。
「えーと、ブレジリエンヌ、和栗のシャタン、シャンティ・フレーズ、シブースト」
片手に携えた白い皿に次から次にケーキを乗せていく、余り器用な手つきとは言えず、スイーツ同士がぶつかって繊細な細工が崩れたり、仕舞いにはケーキの上にケーキを乗せるという暴挙にまで出た、彼。
ぱっと見はスーツ姿の会社員。
特にお洒落でもない平々凡々な眼鏡をかけて地味めの外見。
しかし、よくよく見てみれば綺麗な顔立ちであることが判明する。
その正体は、近頃世間を血生臭い抗争事件でもって騒がせている「鬼津子組」傘下の組の若頭、美沙都その人であった。
敵対する「田奴鬼組」から狂犬ならぬ凶猫と恐れられている彼は周囲の視線など、まるでどこ吹く風、見栄えなど全く気にせずスイーツでお皿がいっぱいになると、きらびやかな料理台を離れた。
余程の甘党なのかと、興味を引かれた他の女性客が見送っていると、美沙都はフロア隅っこのテーブルへ。
美沙都には連れがいた。
黒短髪長身、美沙都と同じくスーツ姿だが、ノーネクタイ、肌蹴た喉元、一般人にしては並々ならない気迫を持った寡黙な連れが。
彼の名は亜難。
美沙都と同じく若頭であった。
「はい、どうぞ」
盛りつけ美に欠ける皿を無造作に置いて美沙都は亜難の向かい側に座り、体を斜めにして足を組んだ。
「……すまない、美沙都」
甘いものだぁいしゅき♪な甘党であるのは亜難の方だった。
大柄な自分が行くと女性客の邪魔になるので、細身の美沙都に代わりに取りに行ってもらっていたのだ。
「僕が選んできたケーキどう? おいしい? 甘い? まろやか?」
「……まだ食べてない」
「僕が亜難に食べさせてあげる」
意気揚々とフォークを手にした美沙都、これまた思いやりのない手つきでケーキをぶすり、残酷に切断すると亜難の口元へ。
勢い余ってフォークの先が頬にぶすり。
「……美沙都、自分で食べるからいい」
周囲のテーブル客が明らかにヒいている中、美沙都の暴挙を一切責めず、女性じみた柔らかな手から亜難はフォークを取り戻した。
手元に落ちたケーキの残骸を一先ず紙ナプキンで拭い、少々ヒリつく頬を拭い、黙々とケーキを食べ始める。
「味見させて」
おっかないものの興味を引かれて周囲の客が未だ注目する中、教室で落ち着きのないこどもみたいにいきなり立ち上がった美沙都は。
テーブルに前のめりになると亜難の頬にくっついていた生クリームをべろりと舐め取った。
「おいしい、亜難のほっぺたについたケーキおいしい、亜難のほっぺたから食べるからおいしいのかな、もっとくっつけてみようっと」
「……やめろ、美沙都、パティシエに失礼だ」
見た目に反して。
すこぶる非常識人の美沙都、亜難は比較的常識人なのであった。
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