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「コンコン、辰巳さぁん、入りまーす……」 キングベッド以外に家具を置いていないシンプルな寝室にノックの音が響いた。 「……まだいたのか、コイ」 次に、過ごしやすい適温に保たれた室内にくぐもった声が落ちる。 ぐったり横たわる彼の元へ紅唯千はおずおずとやってきた。 片腕を顔の前に翳し、目を瞑っている辰巳にしどろもどろに告げる。 「あのー、亜難さんと美沙都さん、中華街に行っちゃって、俺、残されちゃって」 「……あいつら、ろくなことしねぇな」 「辰巳さんのこと、よろしくって」 「……お前は適当にしてろ、ここには来るな、うつる」 「でも、」 「来るな」 「……」 「亜難さん、あの人マジ勝手スギじゃね、そもそも最初のアレ、夏風邪だなんてひとっ言も言わねーし、どう見たって辰巳さん撃たれて重体だって顔してたし、美沙都さんもさー、人の話聞いてんのかなー、あの人いっつも素っ頓狂っていうか、噛み合わないっていうか、てか絶対病人にカレーはヘビー、うっわ、景色すげ!!!!」 辰巳に寝室から追い出されてしょんぼりし、次第にマイペースな若頭二人への苛立ちが募ってイライラし出していた紅唯千は、この部屋からのロケーションの素晴らしさにやっとこさ気がついた。 窓にぺったり張りついて空と海の青がビル群に映える贅沢な眺望に夢中になった。 「すっげ」 つぅか辰巳さんちって初めて来た。 こっんなかっこいーウチに住んでたんだ。 しょんぼり感はどこへやら、初訪問となる組長彼氏のお宅探索開始、ゆとりある対面式の大理石仕様キッチンやウォークインクローゼット、フロア毎にあるトイレ、二階に配されたバスルームを繁々と見て回った。 「すっげ」 シャワー浴びたいけど着替えがねー。 「あ」 美沙都の言葉を思い出した紅唯千はリビングへ戻り、ウキウキワクワク、ショップ袋を開いてみたのだが。 「げ」 な、なんだこれ、紐? あ、違う、紐じゃねー、ぱんつだ。 どれどれ、こっちはなんだ……。 なんでこんな暑いのにストッキングなんか……。 こんなピタピタしたの着たことねー……。 美沙都が購入してきたセクシー系お洋服に紅唯千は正直なところ、げんなりした。 女装男子だからといって全てのウィメンズ商品に食いつくわけじゃない、ちゃんと好みだってあるのだ。 美沙都さん、こーいうの着る女子がタイプなのかな、つまりどすけべおねーさん系……? むしろ美沙都さん自身が似合いそうっていうか……どすけべおねーさん系っていうか……。 「こんなん着れるか」 紐みたいなランジェリーをソファへポイっと投げ、何かマシなものはないかと根気強く探した末に、紅唯千が手にしたのは。 らぶりーな水玉柄のエプロン。 「とりあえずカレー作んなきゃだし、なぁ」 ポイポイしたセクシー系お洋服で埋まったソファの上、メゾネットながらも空調が行き届いているリビングで新たに汗をかくことはなく、シャワーは断念して。 それまで着ていた制服までポイポイした紅唯千。 ボクサーパンツ一丁で水玉エプロンを身につけた。 「ぷ。こんなん萎えるわ」 髪もセットせず、いつもスクバに常備してあるコスメグッズでメークもせず、顔だけテキトーにバシャバシャ洗った。 お出かけでもないし、辰巳は夏風邪を引いて部屋にこもっているし。 せっかく買ってきてくれた美沙都には悪いが、趣味の合わない服を着て女装する気にもなれない。 「ほんとカレーなんて食えんのかな、辰巳さん、まぁむりだったら俺が食えばいっか」 外では気温がグングン上昇中の昼下がり、初めてのキッチンで、ほんの数回作ったことがある程度のカレークッキングに紅唯千は挑んだ……。

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