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「どうしよ、すげーうまいじゃん」
出来上がったカレーを味見してみた紅唯千は目を輝かせた。
リビングの壁一面を占めるガラス窓の向こうにゆっくり広がり始めた茜雲。
慣れない料理に集中して、あっという間に夕方になった。
材料と共に購入されていた白米まで最新の炊飯器でちゃんと炊いた紅唯千は、ふわぁと、欠伸を一つ。
そーいえば、エビの背中の黒いやつ、ちゃんと抜いたっけ、忘れた、まーいーか。
ジャガイモ玉ねぎニンジン、牛肉もチキンもちゃんと入れたよな、うん。
「せっかく作ったんだし美沙都さんや亜難さんにも食べてほしーよな、いつ帰ってくんだろ」
やたら場所をとる大きさながら中はガラガラな冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを失敬し、グラスに注いでゴクゴク飲んでいたら。
それまでシンとしていた二階から何やら物音が。
キッチンから窺っていると階段を下りてくる辰巳の姿が視界に入った。
「辰巳さん、具合どう? 水飲む?」
夕焼けに染まったガラス窓。
新品の洋服で散らかったソファ以外、モデルルーム張りに整えられたリビングへ降り立つ組長彼氏。
普段は明らかに堅気に見えないブラックを基調としたスーツ姿、眼光鋭い目つきで周囲を圧倒し、ただならない男前オーラを纏っているが。
一日中ベッドで休んでいたために黒短髪はしんなり気味。
ヨレがちなTシャツとハーパン。
カーテンを閉め切った寝室の薄暗さに馴染んでいた目はひどく眩しそうに細められていて。
自然光の元で初めてちゃんと目の当たりにした病める辰巳に紅唯千はつい笑った。
夏風邪でダウンしても、辰巳さん、かっけぇ。
半袖ハーパンとか、いつもより若く見えるし、病人だけど健康的っつーか、ノーマルっぽいっていうか。
「一応カレー作ってみたんだけど、食べれそ? ひっさびさ作ったからいろいろ手間取っちゃったけど、けっこーおいしくできたよ!」
「……」
「とりあえず水飲む?」
「……」
ぺた、ぺた、ぺた、ぺた、紅唯千の問いかけに何の反応も示さずに裸足の辰巳はキッチンへやってきた。
2リットルのペットボトルを片手で易々と掴んで振り仰ぐ。
喉骨を緩やかに波打たせて残っていたミネラルウォーターを飲み干す。
火を止めたカレー鍋の前で、紅唯千は、男らしい飲みっぷりについつい見惚れた。
「えーと、辰巳さん、カレー食べる?」
我に返り、おたまを持ったまま無防備に覗き込んでみれば。
辰巳に無言で抱きしめられた。
紅唯千は背筋ぴーーーーん。
やたら熱く感じられる両腕にすっぽり包み込まれて、みるみる逆上せて、口をパクパクさせた。
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