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第29話

椎河さんとの約束の日になった。 一緒に帰ろうという誘いを断り、俺は椎河さんとの待ち合わせの駅へと向かった。 「あ、神代くん」 「ごめん、待たせた?」 「ううん、大丈夫」 この前も思ったけれど、制服姿の椎河さんは私服の時より少しだけ幼く見える。 「えっと、どうする?どこかお店入る?」 俺の言葉に椎河さんは無言で首を振った。 緊張しているのが伝わってくる。 「じゃあ、駅の裏の公園行こっか」 椎河さんは変わらず無言のまま頷いた。 公園に入ると誰もいなくて、入ってすぐのベンチに並んで腰掛けた。 俺と椎河さんとの間には二人分の距離が空けられている。 「椎河さんと初めて会って、一緒に水族館回った時は楽しかったよ。はしゃいでる椎河さんもかわいかったし」 「っ…」 突然話を始めた俺に椎河さんの肩が小さく揺れた。 「俺、この二日間色々考えたんだけど「ま、待って」 この間と一緒で、またもや言葉の途中で遮られる。 椎河さんはベンチから立ち上がった。 「わ、私っ…やっぱり…」 「最後まで聞いてよ」 「で、でもっ…」 椎河さんの表情は今にも泣きそうなくらい不安を滲ませていた。 「椎河さんと連絡取り合うのも、楽しかったよ」 俺もベンチから立ち上がり、椎河さんの手を取った。 「俺でよければ、俺と付き合ってください」 これで、いいんでしょ?ーー祥馬。

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