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第58話
言葉よりも先に涙がこぼれて、頰を伝った。
「っ!!」
俺の涙を見て、祥馬は驚いたように目を見張った。
なんて、残酷なんだろう。
俺の気持ちを受け入れられないのは、しょうがないと思う。
祥馬は女の子が好きだから。
そんなのはずっと分かってた。
でも、受け入れられなくても、受け止めてくれれば、きっとこんな胸が張り裂けそうになることもなかった。
こんな、祥馬の前で泣くことなんて…
「ごめん…好きで、ごめん……好きになって、ごめ…んッ…」
ようやく出た言葉は、謝罪だった。
俺は着替えもせず、荷物も持たずに部室を出た。
帰宅しようとする生徒たちから顔を背け、人混みを避けて行けば体育倉庫の前にいた。
「っぅ…」
早く止めなければと思えば思うほど、涙は止まってくれなくて、声を押し殺して泣いていると、ジャリと、地面を擦る音が近くでした。
やばい、人が…
「瑛翔?何してんの?部活終わってないの?」
佑嗣の声だった。
おそるおそる振り返ると、俺と目が合った佑嗣は驚いたように目を開いた。
「ゆ、うし…」
佑嗣は俺に近づいてきて、指先で顎を掬ったと思えば、唇が重なっていた。
「ん…」
え?
何で…俺、佑嗣とキスしてんの…?
「んぅ…ふッ…んっ」
侵入してきた舌は俺の口内を侵していく。
「っん、待っ…んんぅ…ゆ、しっ…」
そしてゆっくりと唇が離された。
「帰ろっか」
何事もなかったように佑嗣はそう言って俺に笑いかけた。
いつのまにか涙は止まっていた。
「……着替えてくる」
「ん、一緒に行くよ」
一緒にサッカー部の部室へ向かった。
当然そこにはもう、祥馬の姿はなかった。
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