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第59話
ーー俺はお前のこと好きだったけど、恋愛対象になる好きじゃない。お前が俺のことをそういう好きでいる限り、俺はお前と話したくねぇし、顔も見たくねぇーー
頭の中で何度も何度も繰り返される。
時間が経てば、どうにかなるんじゃないかと思ってる自分がいた。
でもそれは、甘い考えだったのだと、突き放されて気付かされた。
俺が忘れない限り、この気持ちを捨てない限り、どうにもならないと…
祥馬は俺を拒絶し続ける。
捨てたところで、どうにかなるとも思えないけど。
好き"だった"と言った祥馬。
今は俺のこと、嫌いになった…?
「瑛翔、…瑛翔っ」
「えっ?」
後ろから佑嗣の声が聞こえてハッと我に返った。
目の前には数学の教師が立っていた。
「神代、そんなに俺の授業がつまらないか?」
「いや…」
「あれの答えは?」
教師が指差した黒板を見る。
「……y=3、です…」
「神代は聞いてなくも解けるんだな」
「っすみません」
周りからすごい、さすが、と声が聞こえてきた。
「分かっててもちゃんと聞いてろよ、テスト範囲とかも言うんだからな」
「はい…」
チラッと後ろを振り返ると、佑嗣がくすくす笑っていた。
それに笑い返して、俺は前に向き直ってちゃんと授業を聞き始めた。
そして昼休みに入ると、変わらず祥馬は他の人と昼食を食べ始めた。
昼食は昨日と同じように佑嗣と食べたけど、昨日のキスについては何も話さなかった。
何でしたのかも、聞けなかった。
きっと、俺が泣いていたから…
深い意味はなかったのだと、そう思うことにした。
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