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第62話
「こんなことして、俺のこと繋ぎとめられるとでも思ってるの?」
「……」
「このキスは何の意味も持たない。だって、祥馬は桐崎さんが好きなんだから。これは、桐崎さんのことも俺のことも傷つけてるって、なんで分からないの?」
「っ…俺は」
「今日の部活休む」
祥馬の言葉は聞かず、それだけ言って落としてしまっていた鞄を拾い上げ、俺は祥馬を押し退け教室を出た。
唇に触れるとピリピリする。
まだ。
まだダメ。
溢れそうになるものをなんとか押し込め、学校を出た。
祥馬は、あんな風にキスをするんだと知った。
何度も、舌を絡め取り、舌先を吸い、
口を離すと時、唇を舐められた。
桐崎さんともあんなキスをしてるの?
こんなこと、知りたくなかった。
忘れなきゃって、捨てなきゃって思ってるのに、
あんなキスしてきて、忘れさせてはくれないの?
『繋ぎとめられるとでも思ってるの?』なんて、我ながらよく出てきた言葉だな。
欲しくはないのに、別の人には取られたくないなんて、勝手過ぎる理由。
もう、忘れたいのに。
"本当に忘れたいの?"
頭の中で誰かが囁いた。
俺はまっすぐ家には帰らず、ある場所へ寄った。
「いらっしゃいませ〜」
「こんにちは」
「あぁ、瑛翔くん。あれ、今日予約してたっけ?」
「いや、してないんですけど、平気ですか?」
「今日はこの後空いてるから大丈夫だよ。いつも通り?」
「今日は…」
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