64 / 260

第64話

教室に入ると、すぐそこの席にいた祥馬が俺を見た。 その顔は一瞬で歪められた。 俺は見ていられなくて、顔をすぐに逸らして自分の席に向かった。 どうしてそんな顔するの。 自分からしたんじゃん。 何で、傷つけられたのは俺なのに、そんな嫌悪するの? この髪だってどうせ、綺麗な色だって言ったことなんて覚えてないんでしょう? 教室でも俺の髪は評判が良かった。 「モテモテだねぇ?瑛翔くん」 佑嗣が揶揄うような口調で言いながら俺の髪を撫でた。 「まぁね」 「ははっ、謙遜しろ」 「謙遜した方が嫌味でしょ?」 「一回やってみて」 「そんなことないよー佑嗣の方がかっこいいよー」 「何その棒読み、傷ついた」 「あははっ、ごめんて」 佑嗣のセットされた髪をくしゃくしゃと撫で回した。 「あー!俺の30分のセットになんてことすんだ!」 「良い感じにくるっとしてるよね、かわいいねぇ」 「思ってないだろ!」 「ふはっ」 ゆるめの天パである佑嗣の髪を手で直しつつ、二人で笑い合った。 昨日あんなことがあって、さっきだって嫌な気分になったけど、自然に笑えてる自分に安心した。 全部、佑嗣のおかげだ。 本当に、佑嗣には救われてる。 昔からずっと一緒だから、言いたくないと思ってることは無理に聞いてこないし、言いたいけど言いづらい時は優しく聞いてくれる。 佑嗣が居てくれればいい。 それは恋愛的な意味ではないけれど。 後はもう、祥馬に関わらないで残りの高校生活を終わらせたい。 もう、恋とか愛なんていらない。 髪を染めたことが、忘れるための第一歩。 俺に残ってる未練をひとつずつ捨てていく。 もう、昨日のことはなかったことにする。 全部全部忘れる。 二つ目は…

ともだちにシェアしよう!