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第65話
「あ、瑛翔くんじゃーん!どうしたの?三年の校舎に来るなんて」
「こんにちは。部長…あ、水科(みずしな)先輩に話があって」
「水科?あー!涼太(りょうた)?待ってて、呼んで来てあげる!」
「ありがとうございます」
その女子の先輩は教室へと入って行った。
教室の中から、涼太ー!瑛翔くん来てるよー!という声が廊下まで聞こえて来た。
そしてすぐに水科先輩が廊下まで出て来てくれた。
お昼休みということもあって、右手には食べかけのパンが握られている。
「すみません、食事中に」
「いや、、それよりもお前昨日も休みやがって…このままじゃレギュラーも…」
「辞めます」
「え?」
「俺、部活辞めます」
「はぁ!?」
「なになにっ、瑛翔くんサッカー部辞めちゃうの?」
「片瀬(かたせ)お前は黙ってろ」
「はーい」
水科先輩は片瀬先輩(そういえばそんな名前だった)を窘めて俺に向き直った。
「本気で言ってるのか?」
「はい」
「理由は?」
「もうやりたくないからです」
俺は水科先輩から目を逸らした。
違う。
小学校からずっと続けてるサッカー。
やりたくないなんて、本当は思ってない。
でも、続けられる気がしない。
「本当に辞めたいのか?」
「っ…」
「サッカー、嫌いになった?」
水科先輩の言葉に俺は首を左右に振った。
「先輩、ずるいですよ。いつもと違って、そんな優しい聞き方…」
「俺はいつでも優しいだろ」
「どうですかね…」
「ははっ。とりあえず今すぐ辞めなくても、休部っていう形にすればいいんじゃないか?」
「休部……」
「一回ガッツリ休んで、ゆっくり考えて、それでもまだ辞めたいって思うならそれでもいい。な?」
「はい…ありがとうございます」
そして俺は教室へと戻った。
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