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第81話

「恥ずかしいんだけど…」 「えー!でもすっごく似合ってるよ!」 「ね!カッコいいよ!」 クラスの女子たちがみんな口を揃えて言う。 「ほんとカッコいいな、神代に似合い過ぎ」 「鷹来くんのそれは執事?」 鷹来くんは執事っぽい格好をしている。 「そう。クラスの女子に鷹来くんは絶対執事だって」 「たしかに、似合ってるね」 「ははっ、ありがとう」 サイズの微調整が行われて、そこまで直す所もなく、すぐに終わった。 そして着替えようとした時、どこかに擦ってしまったのか、指先に痛みを感じて見てみると血が滲んでいた。 このまま着替えたら衣装が汚れてしまう。 そう思って一旦更衣室を出た。 「あれ?神代くんどうしたの?」 「ちょっと指切っちゃったみたいで…」 「私絆創膏持ってるよ!…あ、でも一回洗った方がいいかも…」 「うん、ちょっと洗って来るね」 「これ、渡しとくね」 絆創膏を受け取り、俺は教室を出た。 すると廊下で悲鳴に近い歓声が起こった。 何かと思って周りを見渡すとみんなの視線は俺に向いていて、 あぁ、そうだ。 衣装着てたんだった… 「神代くん何ー?それ文化祭で着るのー?」 「めっちゃかっこいいー!」 なんて言葉を掛けられて、笑顔を返しつつ逃げるように早足でトイレへ向かった。 水道で指先の血を流す。 「…よし」 もらった絆創膏を貼り終えて戻ろうと入り口へ体を向けた時、そこに祥馬が居た。 思わず俺はビクッと肩を揺らしてしまう。 「何そんなに驚いてんだよ」 「や、別に…少し、びっくりしただけ…」 この3週間でよく向けられた目。 それが俺は怖かった。

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