86 / 260
第86話
「瑛翔、じゃあ俺 部活の方に顔出してくるから」
「うん、俺は適当な教室で休んどく」
「ちゃんと誰も居ないか確認しろよ」
「分かってるよ」
そういえば今日は鷹来くんと全然会ってないなと思ったけれど、担当時間が全然違ったからだと思い出した。
『これじゃあ神代と文化祭回れないじゃん』とショックを受けていたのは担当時間を決めた数日前だ。
俺が休憩場所として選んだのは音楽室。
ちゃんと誰も居ないのを確認してから中に入った。
机が階段状に並んでいる作りで、俺は一番上の奥の椅子に寝そべって目を閉じた。
そして少し経った時、物音がした気がして目を開けた。
小さな声が聞こえてくる。
「待って、祥馬くんっ」
「澪央」
この声は、桐崎さんと祥馬だ。
嫌な予感しかしない。
今すぐ起きて教室を出るべき?
でも…
「んんっ」
くぐもった声が聞こえてくる。
こんな状況で今更出れる訳ない。
「ふぁ、んっぅ…んっ、ダメだってばぁ」
「いいだろ、大丈夫だって。音楽室使用禁止だし誰も来ねぇから。鍵も締めたし」
そっと顔を机の間から出すと、祥馬と目が合った。
その目は少し驚きに開かれるも、すぐに細められ俺から目を逸らさずに桐崎さんの首筋にキスをした。
俺が居ると分かって、それなのに…
俺はもう一度隠れるように椅子に寝そべった。
「あっ…祥馬くんっ…」
「澪央…好きだよ、愛してる…」
「んぅっ…わ、たしもっ、祥馬くんのこと、好きぃっ…あっ」
音楽室は音が響く作りになっていて、キスを交わす音がダイレクトに耳に伝わってくる。
そして、その先の水音も。
「あっ、やっだめっあ…んっ」
「澪央っ…澪央ッ…」
俺は耳を塞いだ。
俺がいるって分かってて、どうして…
塞いでも、桐崎さんの喘ぎ声は耳に届き、祥馬の甘い囁きは俺の心を抉った。
ともだちにシェアしよう!