87 / 260
第87話
ようやく音が聞こえなくなった。
「ばか…」
「ははっ、ごめん。でも澪央だって最後は乗り気だっただろ?」
「〜っばか!」
俺は身を潜めて、その場から二人が出て行くまで動けなかった。
ようやく二人が出て行ってから椅子に膝を抱えて座り、膝に額を押し付けた。
「なんなの…」
桐崎さんが好きだから、一生俺には振り向きなんてしないって、そういうメッセージ?
そんなの、好きって言ったあの瞬間に嫌悪されてから分かってるよ。
何で、こんなに傷つけられなきゃいけないの…
なんて、祥馬のせいにして、早く忘れればこんなことも思わないのに。
「俺の涙腺馬鹿になってるなぁ…」
涙がこぼれた。
その時ガチャリと扉が開いて、俺は顔を上げる。
そこには、
「しょ、うま……」
そして祥馬は、鍵を締めた。
「また泣いてんのかよ」
その声音は呆れたような、そんなトーンだった。
「瑛翔って泣き虫だったんだな」
そう言いながら机と机の間の階段を上り、近付いてくる。
俺は慌てて椅子から立ち上がった。
「桐崎さん、は…」
「今送って来た」
そして祥馬は、優しく囁いた。
「おいで?」
ともだちにシェアしよう!