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第88話
「……」
俺は無言で首を振った。
声音は優しいのに、怖い。
どうして…
「何で?」
「い、嫌だから…」
拒否の言葉を口にすると、祥馬は眉間にしわを寄せた。
そうこうしてるうちに祥馬が俺の目の前まで近づいてきていて、こちらに伸ばした手を、俺は反射的に思い切り振り払った。
その手は……
「…触んないでっ。祥馬、頭おかしいんじゃないの?」
「は?」
「たった、数十分前まで、桐崎さんを…彼女を触ってた手でっ…俺に触らないでって言ってんの」
「あぁ、嫉妬してるのか?」
「…違うっ。汚いって言ってる」
「あ?」
俺の言葉に祥馬の声がワントーン下がった。
「いやだっ、」
祥馬は俺の腕を掴んで、無理やり引いた。
ぼすんと、腕の中に収まってしまう。
「祥馬は最低だ…別に俺は、祥馬に何かするつもりなんてないのに、俺が男もいけるとか言ったり、こうやって…俺に酷いことばかりする。俺は、早く忘れたいのに…」
ドンと祥馬の胸を叩いた。
少し身体を離され、至近距離で祥馬と目が合った。
「瑛翔…」
「っやだ!したくない!」
顔を思いっきり逸らした。
「どうして、さっきまで桐崎さんとしてたのに、俺にこんなことできるの?」
「好きじゃなくても、キスくらい出来る。それはお前だって同じだろ?」
「……っ!祥馬だって、好きな相手としか付き合いたくないって言ってたのに、どうしてっ……誰彼構わずこんなことしてんんぅっ!」
無理やり唇を重ねられた。
何度目か分からないキス。
そこに温もりが加わることは、きっと一生ない。
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