99 / 260

第99話

「とりあえず今すぐ保健室行こう。こんなのほっといたら膿むよ」 ーー膿んで、ぐちゃぐちゃになって、一生消えない傷になればいいのになーー 脳内に勝手に流れてくる祥馬の言葉。 「消毒したら、ちゃんと治るかな…」 「治るよ」 「消毒したくない…」 「神代お前…」 思わず零れた言葉。 「…嘘だよ。跡残したくないし、保健室行くよ」 笑顔を取り繕って、俺は鷹来くんを見た。 今更だけど、鷹来くんは執事の格好のままだった。 「鷹来くん今休憩中?」 「え?あー違う、けど…大丈夫だろ。どうせもうすぐ終わるし」 今日の文化祭は17時までで、時計は16時50分を差している。 「ほら、行こう」 鷹来くんは俺の衣装を直して、俺の手を引いた。 音楽室を出ると校内には一般客はほとんどいなくて、生徒ばかりだった。 っていうか俺、鷹来くんと手繋いでるし… 「あの、鷹来くん、手…」 「んー?」 「いや、だから手を離してほしいんだけど…」 「だめー」 そう言って、あろうことか普通に握っていた手を絡ませ、いわゆる恋人繋ぎになった。 「ちょ…」 「いいから早く歩いて」 「王子と執事が手繋いでるー!」という周りからの言葉にも、鷹来くんが「仲良しだから〜」と笑いながら返していて、そこまで騒がれることもなく保健室へ着いた。 「どうしたの?怪我?」 「俺じゃなくてこいつなんですけど、首のとこ」 丸椅子に座らされる。 先生は消毒液をガーゼを持って俺の元へ戻って来た。 「ありゃーこれは酷いわね。どうしたの?」 「えっと……」 「まぁいいわ。消毒するから待ってね。結構滲みると思うけど我慢してね」 言い淀んだ俺に、先生はそれ以上深くは聞いてこなくて助かった。 「っい…」 消毒液の付いたガーゼが傷口に当てられる。 あまりの痛みに声が出た。

ともだちにシェアしよう!