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第99話
「とりあえず今すぐ保健室行こう。こんなのほっといたら膿むよ」
ーー膿んで、ぐちゃぐちゃになって、一生消えない傷になればいいのになーー
脳内に勝手に流れてくる祥馬の言葉。
「消毒したら、ちゃんと治るかな…」
「治るよ」
「消毒したくない…」
「神代お前…」
思わず零れた言葉。
「…嘘だよ。跡残したくないし、保健室行くよ」
笑顔を取り繕って、俺は鷹来くんを見た。
今更だけど、鷹来くんは執事の格好のままだった。
「鷹来くん今休憩中?」
「え?あー違う、けど…大丈夫だろ。どうせもうすぐ終わるし」
今日の文化祭は17時までで、時計は16時50分を差している。
「ほら、行こう」
鷹来くんは俺の衣装を直して、俺の手を引いた。
音楽室を出ると校内には一般客はほとんどいなくて、生徒ばかりだった。
っていうか俺、鷹来くんと手繋いでるし…
「あの、鷹来くん、手…」
「んー?」
「いや、だから手を離してほしいんだけど…」
「だめー」
そう言って、あろうことか普通に握っていた手を絡ませ、いわゆる恋人繋ぎになった。
「ちょ…」
「いいから早く歩いて」
「王子と執事が手繋いでるー!」という周りからの言葉にも、鷹来くんが「仲良しだから〜」と笑いながら返していて、そこまで騒がれることもなく保健室へ着いた。
「どうしたの?怪我?」
「俺じゃなくてこいつなんですけど、首のとこ」
丸椅子に座らされる。
先生は消毒液をガーゼを持って俺の元へ戻って来た。
「ありゃーこれは酷いわね。どうしたの?」
「えっと……」
「まぁいいわ。消毒するから待ってね。結構滲みると思うけど我慢してね」
言い淀んだ俺に、先生はそれ以上深くは聞いてこなくて助かった。
「っい…」
消毒液の付いたガーゼが傷口に当てられる。
あまりの痛みに声が出た。
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