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第112話
「はっ、心配してんだけど」
「いらない心配だね。大体誰のせいで…」
「その傷見る度に俺のこと思い出すだろ?」
「っ、…!」
俺の反応を見て満足そうに笑った。
「でも痒いってことは治りかけてるんだな。消毒なんかするから。そのまま掻いてれば傷が残るかもしれないけど、確実じゃねぇよな…」
「何言ってんの…?」
後ろに下がろうとしたら窓に背中が当たった。
「噛むのもいいけど、もっと深く傷つけた方がいいよな」
「え?っ…待って、…」
カチカチと音がして、祥馬の手元に視線を移すとそこにはカッターが握られている。
「頸動脈までは、皮膚から2.3センチあるんだって。頸動脈切ったら、瑛翔死んじゃうかもしれないな」
「っ……」
声が出ない。怖い。
こんな時に文化祭の時、音楽室でのことを思い出す。
祥馬はあの時、俺の首を絞めた。
俺のこと、ころしたいの?
「ははっ、すげービビってんな?」
カッターを持っていない左手が俺の頬に触れた。
その指先がとても冷たく感じた。
「怖い?」
俺をまっすぐに見つめ、優しく微笑んだ。
こんなに優しい顔を見たのは、俺が好きだと伝えてしまった以来初めてだった。
でも、そんな優しい微笑みに、ただただ恐怖しか感じない。
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