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第114話
「離れ、ろっ!」
ぐいっと祥馬は鷹来くんに肩を掴まれ、俺から引き剥がされた。
その拍子に俺も握っていた手を離した。
「珀音、お前…」
「久城、お前何してんだよ…それで神代のこと傷つけようとしたのか?」
鷹来くんはまだ握ったままのカッターを見ている。
そして鷹来くんは祥馬の耳元で何か言った。
俺には何て言ったのか聞こえなかった。
祥馬は鷹来くんを睨みつけた。そして、
「…帰る。じゃあな、瑛翔」
祥馬は小さく舌打ちをして、荷物を持つと教室を出て行った。
鷹来くんは祥馬が教室を出て行ったのを見届けてから、俺の方へ近づいた。
「神代っ、大丈夫?怪我してるな…。保健室に行こう」
「…や、保健室は…」
「何で?」
「だって、この間…多分先生に誤解されたし…」
「でも…」
「行きたくない…」
鷹来くんは溜息を吐いた。
俺に、呆れてしまったのだろうか?
「分かったよ。でも手当はしないと…」
そう言って連れてこられたのは陸上部の部室だった。
「え、鷹来くんって陸上部なの?」
「あー言ってなかったっけ?まぁほぼ行ってないし、幽霊部員なんだけど」
慣れたように部室に入り、救急箱を取り出した。
「ほら、まずは左手の手首出して」
大人しく差し出す。
「消毒するよ」
消毒液を含ませたガーゼで傷口を拭われる。
少しだけ沁みた。
「そんなに傷口深くないみたいだし、出血も今は止まってるから、絆創膏でいいかな。問題はこっちだな」
難しい顔をしながら、鷹来くんは俺の襟元をワイシャツを捲った。
「せっかく治りかけてたのに。あいつ本当に何考えてんだよ…」
ボヤきながら傷口を消毒してくれた。
こっちはさっきと比べてかなり沁みた。
「っっ!」
「痛い?化膿止めは流石に救急箱には入ってないな…」
「前にもらったのがまだ家に残ってるからそれ塗るよ」
「ちゃんと塗れよ」
簡単に手当してもらい、俺たちは一緒に学校を出た。
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