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第120話

「なん、で……んっ」 ちゅっ、とわざとリップ音を立てて、鷹来くんはキスをした。 「何でって、呼んで欲しいから?」 俺たちは、お試しで付き合ってる。 それは、鷹来くんからの提案だった。 名前を呼ぶって、男同士なら普通のこと? 「藤白のことも、久城のことだって名前で呼んでるじゃん」 「でも…んっ…、…」 言葉の合間合間に、鷹来くんは軽いキスをしてくる。 この間みたいな、深いキスじゃない。 「呼んでよ、そしたら…」 耳元に唇が寄せられて、低く、そして聞いたこともないような甘い声で囁かれた。 「腰抜けるくらい気持ちいいキスしてあげる」 その声だけで、背中がぞくぞくした。 「っ…い、いらないっ、し!」 「神代って天邪鬼だよね」 「っ…!」 「俺がしたいから、呼んでよ」 人差し指が顎に添えられ、クイッと上へ持ち上げられて、嫌でも目が合ってしまう。 その目は欲に濡れていて、思わず息を飲んだ。 「……は、はく、と…」 こぼれた声はあまりに小さくて、鷹来くんに届いたかも分からないのに、目の前の顔は破顔した。 「…っ!!」 「ふっ、かわい」 「なっ…んんっぅ…待っ…んっ」 深く、深くなっていくキスに、俺は気付けば鷹来くんに縋り付くように掴まっていた。 そんな俺を支えるように、鷹来くんの手が腰に添えられた。 「んんッ…ッ…ふ…ぅ」 たったの数秒だったのかもしれないけれど、俺にとっては何分もに感じたキスが、鷹来くんの唇が、ようやく離れていった。 俺たちの間には銀の糸が紡がれ、鷹来くんはそれを舐めとって俺を見下ろすと、それはそれは爽やかに笑った。

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