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第141話

「佑嗣遅いなぁ…」 佑嗣が出て行ってから、もう一時間が経った。 もしかして何か、話してるのかな…? "お前が佑嗣と付き合わないように、誰とも付き合わないように、お前が他の誰かのものにならないように、俺が珀音に言ったんだよ" "なぁ、瑛翔?珀音との恋愛ごっこは楽しかったか?" "……全部嘘だった。全部わざとで、全部計算だったんだ。ごめん…。でもっ" 「あー…何も考えたくないのに…」 頭の中を埋め尽くす言葉。 祥馬の欲情した顔が、鷹来くんの笑った顔が、頭に浮かぶ。 修学旅行の前に鷹来くんと一緒に買い物に行って、あの時は楽しかった。 俺に向けてくれた今までの笑顔も、嘘だったの? 騙すために、キスまでしたの? 「見事に絆されちゃったのかな…」 涙が出そうになる。 好きな人に拒絶されて、好きになりかけてた人に嘘をつかれて、 「俺は…」 その時、ピッという音がしてすぐに扉が開いた。 「佑嗣…!」 「ごめん遅くなって…。はい、これ」 「ありがとう…あの、…」 俺は言葉を紡ごうとしたが、上手く声に出せない。 「鷹来と話してきた」 「っ…!」 「俺からは何も言わないよ。でもさ、二人は別れたことになってないよな?」 「え…?」 「お試しって言っても付き合ってるんだし」 「そ、うだけど…」 今まで付き合った子たちとも自然消滅になったことはない。 ちゃんと、別れの言葉を言ってから別れた。 だから、鷹来くんとも…?

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