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第142話

「でも、今日は…」 だって、まだ俺の中で… 「うん」 「まだ、今は冷静に話ができない、と思うから…」 「ん、それは瑛翔の整理ができたらでいいんじゃない?」 どこまでも優しい佑嗣。 ずっと俺の味方でいてくれて、優しくしてくれて、 「佑嗣が居てくれて本当に良かった…」 「なんでも言って。とりあえず祥馬のこと一発殴ろうか?」 「えっ!?」 「ははっ、冗談だよ。殴るなら瑛翔が殴るんだよ」 殴る、なんてそんなこと俺にはできない。 人を殴ったことなんてない。 それよりも、 俺に祥馬を殴るなんて、祥馬を傷つけることなんてきっと、一生できない。 だって、キスを拒むために舌を噛むことさえできない。 触って欲しくないからって蹴り上げることなんて絶対にできない。 「酷いことされても、俺は祥馬を…「瑛翔」 名前を呼ばれて、いつの間にか落ちていた視線を上げる。 佑嗣はどこか悲しそうな表情をしていた。 「瑛翔。俺は、祥馬のやってることは許されることじゃないと思ってるし、許すべきじゃないと思ってる。瑛翔が許しちゃったら、ここに負った傷は、どうやって癒すの?」 トンっと、胸を指先でさされた。 「ゆぅ…し……」 「瑛翔自身が傷ついてるのに、謝りもしないあいつを好きだからっていう理由で許すのは間違ってる。祥馬への特別な想いが消えないのは、俺にはどうすることもできないし、きっと瑛翔にもどうにもできないんだろうけど、でも、」 両頬をふわりと包まれる。 「傷を見て見ぬ振りするのは、結局もっと自分を傷つけるだけだ」 「っ……」 佑嗣の言葉が胸の奥の深いところまで入ってきて、目頭が熱くなる。

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