156 / 260
第156話
Another story side-鷹来珀音-
お試しで付き合い始めて、知らない神代を知っていくのは楽しかったし、悲しそうな笑いかたじゃなくて本当に楽しそうに笑うし、それを俺に向けてくれるのが嬉しかった。
気づいたら、本当の意味で好きになってた。
守ってやりたいと思うようになってた。
自分だけを見ていて欲しくなってた。
ずっと笑っていて欲しいと思うようになってた。
久城のせいで壊れて欲しくなかった。
でも、
本当のことが言えなかった。
興味本位だったのは紛れも無い事実だ。
それに、初めて話しかけた時、久城に見張ってくれてたらって言われたのを思い出したから、話しかけた。
気まぐれに、暇つぶしに、そんな軽い気持ちで近づいたから。
だから、それを正直に言って、
拒絶されるのが、
嫌われるのが、
それになにより、傷つけてしまうことが怖かった。
傷ついて欲しくないと思って付き合い始めたのに、結果、俺が傷つけてしまうことがとにかく怖かった。
このまま隠していたって、傷つけてしまうことに変わりはない。
だから正直に、全て話そうと、そう思った。
全部話して、それで、お試しじゃなくて、本当に付き合って欲しいと伝えようと。
決意したのに、いざ話そうとすると怖くて、一緒に笑い合ってる時間が楽しくて、何度も先延ばしにしてしまえば、修学旅行が始まってしまった。
--
移動のバスの座席が神代は久城の隣で、心配で仕方なかった。
「神代、バス大丈夫だった?」
バスを降りてから聞くと、神代は笑ってそう言った。
「大丈夫だよ」
「本当に?席変わってもらおうか?」
「平気だって。鷹来くんって心配性?」
「瑛翔、そう言ってやるなよ。鷹来だって心配なんだよ」
藤白がそんな言い方をする。
俺は神代の向こう側を歩く藤白に視線を送る。
「俺だって、って言い方失礼じゃない?俺は神代のこと大切にしたいだけだし」
それは紛れも無い本音だった。
「それは十分分かってる」
俺と藤白の間を歩く神代は恥ずかしそうに、俺とも藤白とも視線を合わせないようにしていた。
ともだちにシェアしよう!