161 / 260

第161話

Another story side-鷹来珀音- 「俺、お前に、瑛翔のこと泣かすなって言ったよな?」 「ごめん、、」 俺は藤白と目が合わせられなかった。 俯いて、自分の靴を見つめる。神代と色違いの靴を。 「昨日、何があった?何で瑛翔のこと助けなかった?」 「…っ、助けたかったよっ。でも、出来なかったんだ」 握った拳に力が入る。 「何で?あんなに傷ついてるのに、助けなかったのか?」 「…もっと、傷つけられると思ったから」 「どういう…」 「そんなの言い訳だって、藤白は思うかもしれないけど、久城は昨日ハサミを持ってたんだ」 「ハサミ…?」 俺は俯いたまま話し続ける。 「前に、久城が神代のこと、カッターで切りつけようとしたことがあったんだ」 「はっ!?」 「……神代から聞いてなかった?」 「聞いてない」 藤白にも、話せなかったんだな。 「脅しじゃない。久城は本気で、やろうとしてた。あの時は止められたけど、昨日は…無理だった。近づけば、先に久城が動くと思った」 「それで…」 「黙って見てるしかなかった。それしか出来なかった。俺は、咄嗟に何も考えられなかった。助ける術を、思いつけなかった」 顔を上げて、ようやく藤白と視線を合わせれば、複雑な表情をしていた。 「神代のこと、泣かせてごめん…。傷つけてごめん。大切に…っ…でき、なくて…ごめん…っ」 涙がこぼれそうになって、俺はパッとまた俯いた。 「鷹来……お前、瑛翔のこと…」 「…っ、…好きだよ。本気なんだ…ちゃんと話して、許されるなら、お試しじゃなくて、真剣に付き合いたい」 「そうか…」 ぐいっと目元を袖で拭った。 「あのさ…このこと、藤白から神代には話さないで欲しいんだ。俺が、ちゃんと話したいから…」 「分かった。でも、お前もあんまり抱え過ぎんなよ」 「ふっ…藤白って男前だな」 「だろ?」 「ありがとう…じゃあ行くわ」 「あぁ、また後でな」 そして俺は藤白と別れ、部屋に戻った。

ともだちにシェアしよう!