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第170話

「逸らすなよ」 「っ…!」 急に伸びてきた手に顎を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。 すると鷹来くんがすぐにその腕を掴んだ。 「触らないで」 聞いたことのない鷹来くんの冷たい声に驚いていると、無理やり手を離させられて、祥馬の手から逃れられる。 俺は思わず数歩、祥馬から後退りした。 それを見てか、祥馬はチッと舌打ちをした。 「離せよ」 祥馬は鷹来くんを睨みつけてそう言うと、鷹来くんは祥馬の腕を離した。 「神代に何の用なの?」 「…瑛翔、本当に珀音のこと好きになったのか?俺よりも?」 鷹来くんではなく、俺の方をまっすぐ見て問いかけられる。 それは冷たい表情ではなくて、少し寂しそうに見えた。 「そうだよ。俺は…」 「俺のこと忘れんの?」 「…何で、そんなこと言うの?祥馬は俺を好きにならない、それが全てでしょ?」 祥馬は俺を見ているけど、何も言わない。 「それに、俺はもう祥馬のことは「うるさい」 「え?」 「そんなの聞きたくねぇよ」 祥馬は俯いてしまった。 困って、どうすればいいのか分からなくて、隣に立つ鷹来くんを見上げると、鷹来くんは同情の目を向けていた。 「久城、話はそれだけ?それだったらもう俺たち帰るけど」 同情してる、なんて違った。 鷹来くんは、祥馬を蔑んでいる。 「神代、帰ろう」 「あ、うん…」 「ふざけんなっ…!」 振り返って扉に向かい始めた所で、後ろからそんな声とほぼ同時に、首が、締まった。

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