196 / 260
第196話
「さっきなんて言われた?」
校門へ歩きながら、佑嗣は俺へ視線を向ける。
「…諦めないって」
「祥馬変わったな」
「え?」
「だって、昔のあいつなら、そんなこと言わないだろ。好きな相手に付き合ってる人とか、好きな人がいるって分かるとすぐに諦めてたじゃん」
たしかにそうだ。
振られるのが怖いから告白しない。
まるで俺と同じだ。
「…何考えてる?」
「え?いや、俺と同じだなって」
「違うよ。瑛翔は、今の関係が壊れるのが怖かった。怖かったから言えなかった。でもあいつは相手に振られるのが怖かっただけ」
「同じだよ。俺だって振られるのが怖かった。…まぁ、振られるだけなら良かったんだけどね」
俺は笑ったつもりだったけど、ちゃんと笑えていたかは、難しい顔をしている佑嗣の表情からは分からない。
「今でも、あの時のことは後悔してる。言うつもりはなかったけど、言ってしまったんだから、ちゃんと伝えれば良かったなって」
俺は佑嗣から顔を逸らして、前を向く。
「それで受け入れられないで拒否されてたとしても、今ならもう吹っ切れてたかもしれないでしょ」
佑嗣が突然足を止めた。
「佑嗣?」
「俺は、瑛翔のこと弱いって思ってたけど、ちゃんと強いとこもあるんだよな。当たり前だけど」
「ふはっ…なに急に?」
「いや、今の話聞いてちょっと思ったから」
佑嗣は俺をまっすぐに見つめて、笑った。
「弱いだけじゃ、乗り越えられないからね」
小さく呟いた声は、佑嗣には届いていなかった。
ともだちにシェアしよう!