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第196話

「さっきなんて言われた?」 校門へ歩きながら、佑嗣は俺へ視線を向ける。 「…諦めないって」 「祥馬変わったな」 「え?」 「だって、昔のあいつなら、そんなこと言わないだろ。好きな相手に付き合ってる人とか、好きな人がいるって分かるとすぐに諦めてたじゃん」 たしかにそうだ。 振られるのが怖いから告白しない。 まるで俺と同じだ。 「…何考えてる?」 「え?いや、俺と同じだなって」 「違うよ。瑛翔は、今の関係が壊れるのが怖かった。怖かったから言えなかった。でもあいつは相手に振られるのが怖かっただけ」 「同じだよ。俺だって振られるのが怖かった。…まぁ、振られるだけなら良かったんだけどね」 俺は笑ったつもりだったけど、ちゃんと笑えていたかは、難しい顔をしている佑嗣の表情からは分からない。 「今でも、あの時のことは後悔してる。言うつもりはなかったけど、言ってしまったんだから、ちゃんと伝えれば良かったなって」 俺は佑嗣から顔を逸らして、前を向く。 「それで受け入れられないで拒否されてたとしても、今ならもう吹っ切れてたかもしれないでしょ」 佑嗣が突然足を止めた。 「佑嗣?」 「俺は、瑛翔のこと弱いって思ってたけど、ちゃんと強いとこもあるんだよな。当たり前だけど」 「ふはっ…なに急に?」 「いや、今の話聞いてちょっと思ったから」 佑嗣は俺をまっすぐに見つめて、笑った。 「弱いだけじゃ、乗り越えられないからね」 小さく呟いた声は、佑嗣には届いていなかった。

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