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第205話
「俺の話を聞いてっ…」
離れた手を、今度は俺から掴む。
「俺は鷹来くんと別れたくない」
俺の言葉に、鷹来くんは目を丸くして驚いている。
「神代…?」
「別れたくないんだよ。…ごめんっ、俺嘘吐いた。何もされてないって言ったけど、キスされたんだ」
鷹来くんは何も言わない。
「今まで無理矢理されてきたキスとは違った。優しいキスだったんだ。それでも俺は…祥馬に、その気持ちには応えられないって言った!鷹来くんが好きだから、鷹来くんの方が好きだからって…」
涙が次々と溢れていくけど、拭うことも忘れて、縋り付くように鷹来くんの手をぎゅっと更に力を込めて握る。
「だから、そんなこと言わないで…」
「本当に?」
信じられないといった表情で俺を見つめる。
「本当だよ。鷹来くんを裏切れないと思ったのも事実だけど、それ以上に俺は鷹来くんのことが好きなんだよ。手放したくない…っ」
俺はようやく自ら涙を拭った。
「それとも鷹来くんは、俺と別れたくなった?」
「そんなわけない」
「だったら!…離さないでよ」
「最後のチャンスだよ?」
「なにが…?」
「俺から離れられる」
「は?」
「俺、今なら手放せる。これを逃したら、神代のこと一生離せないよ?」
そんなことを言いながら、俺から握った手は握り返され、どんどん力がこもっていく。
「…すごい口説き文句じゃない?それ」
「俺は本気。いいの?」
「いいよ、離さないで」
笑ってみせたら、鷹来くんはさっきの切ない表情とは違う、泣きそうな顔で俺の腕を引いて、
優しく、抱きしめてくれた。
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