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 今日のおかずは、チーズ入りハンバーグの予定だった。たまにしか作らないお子ちゃま舌の善の大好物。  だがしかし、残業で遅くなった上に、善と話している間に22時近くになってしまった。手間はたいしてかからなくても、明日の胃の状態を考えるとどうも作る気になれない。  俺の隣で早く早く!と言わんばかりに頬を擦りつけてくる大型犬を引き剥がした。 「なー、メニュー変更していい? いくらなんでもこの時間にハンバーグは重すぎだろ。高校生じゃあるまいし」 「えー……やだ。まこのハンバーグ、おいしく食べるためにお昼抜いたのに。午後の診察、お腹グーグーしても我慢したんだよ?」  大人になって、ますますショーモデルのように男前に育ってしまった善が似合わない膨れっ面をする。俺はパーマがかかった髪をなで、腹をグーグーいわせながら、口でもブーブー文句をたれる善をなだめた。 「そりゃあ、我慢したのは患者さんのほうだっての。俺ならやだわ〜、歯削られながら腹の音聞くの。ハンバーグはまた今度作ってやるから、今日は我慢な。なんなら明日の昼用に、風呂上がってから作ってやろうか?」 「いい。まこの睡眠時間、減るもん……」  善はしおらしく肩を落とし、俺から少し距離をおいた。汗と機械油で汚れた俺のために、風呂の給湯スイッチをいれてくれるらしい。ちなみに湯船の栓は俺が朝閉めておいた。だからそんなに自慢げな顔をするんじゃねぇ。褒めるほどのことじゃないぞ。指一本でできる仕事だからな。 「現在進行形で俺の睡眠時間とエネルギー削ってるの、お前だけどな。いい加減自分で飯作れるようになれよ。……って、お前は勝手に我慢してたんだからどうでもいいけど、あの子は? あの子に飯食わせたの?!」 「……あ。クリニックでおにぎりひとつ食べたきりだ。夕方あがる受付の人が、わざわざ買ってきてくれて」 「子供の胃袋の容量っていまいちよくわかんねぇけど……それじゃ足りないんじゃねぇの? バランスも悪いし。つーか、すでに寝る時間っ! 寝る時間もすぎてるよな?」  さっきから身動きせず、いい子で座る小さな背中に呼びかける。 「おじちゃんたち今からご飯食べるから、一緒に食べよう。お腹減ってるでしょ? それともお風呂入って寝る?」  小さな背中が振り向き、困ったように笑った。返事はきけなかったが、男の子の分も作っておこう。おにぎりひとつじゃ絶対足りないはずだ。

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